鹿島アントラーズvsサンフレッチェ広島が魅力的な攻防を展開 古豪同士の対決はなぜ人々の心を打つのか

  • 後藤健生●文 text by Goto Takeo

連載第15回 
サッカー観戦7000試合超! 後藤健生の「来た、観た、蹴った」

なんと現場観戦7000試合を超えるサッカージャーナリストの後藤健生氏が、豊富な取材経験からサッカーの歴史、文化、エピソードを綴ります。J1第30節の鹿島アントラーズvsサンフレッチェ広島の上位対決は、両チームが魅力的な攻防を展開。歴史ある古豪同士の対戦だった点も、人々の心を打つ好ゲームになった理由だといいます。

【新加入選手が活躍した広島】

 9月14日に行なわれたJ1リーグ第30節の鹿島アントラーズ対サンフレッチェ広島の試合は、見ごたえのある攻防の末に2対2の引き分けに終わった。

J1第30節鹿島アントラーズvsサンフレッチェ広島は点を取り合う好ゲームに photo by Getty ImagesJ1第30節鹿島アントラーズvsサンフレッチェ広島は点を取り合う好ゲームに photo by Getty Imagesこの記事に関連する写真を見る 前節までリーグ戦7連勝で首位に立っていた広島は、代表ウィークの中断期間中には天皇杯全日本選手権とYBCルヴァンカップというふたつのカップ戦でともに敗退が決まった。ただし、これからACL2にも参加する広島にとって試合が過多なのは明らかだった。ふたつの国内カップ戦で敗退したのは、リーグ戦に集中できる環境が整うという意味ではポジティブに捉えることもできる。

 それにしても、広島が毎シーズンのように限られた戦力で、ほとんどターンオーバーを使うことなく夏場の連戦を乗りきる底力には驚かされる。ミヒャエル・スキッベ監督のマネージメント能力によるものなのだろう。

 また、FW大橋祐紀(ブラックバーン)をはじめ、何人もの主力級がシーズン途中でチームを離れたのは大きな懸念材料だったが、新たに加わったMFトルガイ・アルスランが活躍し、そしてさらにFWゴンサロ・パシエンシアも加入。3年ぶりに復帰したMF川辺駿も含めて、非常に効率的な補強をした。

 その、注目のパシエンシアは鹿島戦で初めて起用され、その能力の高さを存分に見せつけた。

 開始直後から広島が猛攻をしかけたが、パシエンシアはターゲットとして前線でしっかりとボールを収め、またDFのマークを外してシュートを狙う......。看板通りの本格的なセンターフォワード(CF)だった。

 しかし、先制ゴールを奪ったのは押し込まれていた鹿島だった。17分にCKから知念慶が決めた。知念は現在ボランチとして起用され、ボール奪取能力の高さを示しているが、川崎フロンターレ時代はFWだった。その片鱗を見せたヘディングシュートだった。

 それでもその2分後、広島もCKからのボールをパシエンシアが落ち着いて頭で決めて同点とし、さらに36分には川辺が左サイドを突破して入れたクロスに松本泰志が合わせて広島が再びリードした。

 広島はふたりのセントラルMFのうち塩谷司を最終ラインの前に配置し、川辺はトップ下を任され、左右に大きく動いて相手のマークから離れてプレーし、攻撃の起点を作っていた。

 こうして前半は両チームがオープンに攻め合う展開となり、広島の攻撃力が上回って2対1のスコアで終えたが、後半に入ると流れが一変する。

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プロフィール

  • 後藤健生

    後藤健生 (ごとう・たけお)

    1952年、東京都生まれ。慶應義塾大学大学院博士課程修了(国際政治)。1964年の東京五輪以来、サッカー観戦を続け、1974年西ドイツW杯以来ワールドカップはすべて現地観戦。カタール大会では29試合を観戦した。2022年12月に生涯観戦試合数は7000試合を超えた。主な著書に『日本サッカー史――日本代表の90年』(2007年、双葉社)、『国立競技場の100年――明治神宮外苑から見る日本の近代スポーツ』(2013年、ミネルヴァ書房)、『森保ジャパン 世界で勝つための条件―日本代表監督論』(2019年、NHK出版新書)など。

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