田中聡の理想像は湘南の先輩・遠藤航 アンカーとして殻を破るためのカギは『お前からチームに発信しろ』 (2ページ目)
【怖くてDFからパスを受けたくない】
高校生にしてJ1で17試合を経験。正式にプロになった2021年は、さぞ自信を持ってプレーしたことだろう。
「2021年ですよね。それが夏くらいまでは全然、ダメだったんです」
なぜと聞くと「メンタルです」と即答した。
「前年に比べると、相手からボールも奪えなくて、攻撃参加もなかなかできなかった。3バックだけでなく、ボランチで起用してもらった時も、自分のプレーはよくなくて......。それでも敏さん(浮嶋監督)は試合に使い続けてくれる。ダメなのに試合に起用してもらえるから、ついには『俺、試合に出るのか』みたいなネガティブな思考になりました」
田中聡の存在なしに湘南ベルマーレの飛躍はない photo by Sano Mikiこの記事に関連する写真を見る 誤解を恐れずに言えば、試合に出るのが怖くなる感覚──。
「ほかの選手のほうが絶対に調子もよかったし、ほかの選手が試合に出るべきだったんですよね。何より、周りの人たちが『何であいつが出ているんだ』って言っている声が耳に入ってしまって......。それもあって余計にしんどくなって、精神的にも苦しかったですね」
思考がネガティブになれば、プレーもマイナスに作用する。
「当時はボランチで試合に出ることが多かったのですが、DFからパスを受けたくないから、隠れていましたね。ミスをしたくないからセーフティーなプレーばかりを選択していたし、いざボールが来てもすぐに失う。悪循環そのものでした」
当時の浮嶋監督からは、戦術的な話こそあったものの、精神的な部分には一切、触れてこなかったという。言葉で直接的にアドバイスするよりも、自分で乗り越えなければならない問題であることをわかっていたからだろう。
事実、きっかけはどうであれ、田中は自ら乗り越えた。覚えているのは、解き放たれた確かな感覚があったからだ。
「FC東京戦(第22節)で、途中から出たにもかかわらず退場してしまって、次節が出場停止になったんです。そのタイミングでリーグは中断期間に入り、キャンプを行なったんです。再開後は出場停止だから、控え組で練習することになる。そうしたら気持ちもラクになり、本来のプレーを取り戻すことができました」
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