38歳になる都倉賢が「生涯現役」宣言 「経験って力」「自分の心がダメにならない限り、きっと点は取れる」 (2ページ目)
加えて、ミシャ(ミハイロ・ペドロヴィッチ監督)との出会いもサッカー観に刺激を与えてくれる出来事でした。それまでもサッカーをチェスや将棋に形容して話していた人はいたけど、ミシャはそれを本当の意味で教えてくれた人。自分が駒のひとつとして役割を全うすることを学び、それが数字ともイコールになっていった」
しかも、その感覚は2019年から2シーズンにわたって在籍したセレッソ大阪で、より研ぎ澄まされた。
「"ミシャ・イズム"を論理的に落とし込んでくれたのが、ミゲル・アンヘル・ロティーナ監督で、ボールを蹴るたびに『うわ、まじか!』と、パラダイムシフトが起きるような感覚もありました。FWとして局面に勝つか負けるか、ヘディングで競り勝てるか、キープできるかできないか、みたいなところでしか勝負してこなかった自分が、グループで点を取る面白さに開眼したのもこの時期。
自分が相手DFを引きつけてピン留めすることで、味方の選手が空くとかって理論は、今の時代でこそ当たり前になったけど、当時の僕にとっては新鮮でした。それまでとはまったく違うサッカーの面白さを知り、毎日が本当に楽しかった」
ひとつ残念だったことがあるとするなら、そのロティーナのサッカーに楽しさを覚え始めたばかりの2019年。レギュラーとして活躍する最中の5月に、横浜F・マリノス戦で右ヒザ前十字靭帯断裂、半月板損傷の大ケガを負い、それをピッチで体感する時間が大幅に削られてしまったこと。
「その日の夜の落ち込んだ気持ちも、辛かった記憶も、今も鮮明に覚えています」
だが一方で、プロになって初めて長期のリハビリと向き合った経験は"サッカー"という括りを超えて、大きなエネルギーを得る時間にもなった。
「ケガをしてしまったのは残念でしたけど、今となってはあの経験があったから、今もこうしてサッカーができているのかなと思っています。9カ月間を通して自分の体のモニタリングがきちんとできるようになったのは、今のグルージャのような環境でプレーするうえでもすごく活かされていますしね。
また、その復帰の過程にしっかり向き合おうと、ハッシュタグに『返り咲きカウントダウン』とつけて、自分がこの困難な局面をどう克服していくのかをSNSで発信していたら、産後、仕事に復帰しようとしている主婦の方や、受験勉強中の人、リストラにあって次のキャリアに向かおうとしている人など、いろんな人が共感してくださって。それぞれの向き合っている困難から一緒に立ち上がろうという共感の輪ができた。
その時に、人と人が共感し合いながら何かを起こすエネルギーはマジで力強いと感じたし、自分自身も共感の輪を広げながら復帰に向かえたことや、その過程で感じたいろんな気づきは、自分らしく人生を生きることへのエネルギーに変わりました」
その後、2020年に戦列に戻った都倉は、契約満了を受けて2021年にV・ファーレン長崎へ移籍。3シーズンを戦い、今シーズンからは、いわてグルージャ盛岡に籍を置き、自身にとって初のJ3リーグを戦っている。
「正直、プロ3年目に(ザスパ)草津の環境を経験していなかったら、ここにきてカルチャーショックを受けたところはあったかもしれません。おそらく『なんで、自分で練習着を洗わなくちゃいけないの?』から始まっていたんじゃないかな(笑)。
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