常勝軍団復活へ 鹿島はなぜポポヴィッチを呼んだのか? 強化部長が明かす、選手強化のビジョンと課題 (4ページ目)

  • 木村元彦●文・取材 text by Yukihiko Kimura

―あと、ベオグラード大学でサッカーを学んできた塚田貴志通訳の存在は大きいですね。彼はかつてコンサドーレ札幌を指揮した(イビツァ・)バルバリッチの下でもやりましたし、サッカーを言語化する引き出しが多い。

「ポポさんの監督としての能力を高めるのは、塚田がいなければいけないと思っています。共に長くサッカーを指導しているから、出てくる言葉がある。ニュアンスがわかる。気になったことは私にも話してくれる。僕はまず、塚田にサッカー界に戻ってくる気があるかを聞きました。ポポさんを呼ぶうえで彼は不可欠だと思っていました」

―ウインドウが閉まる直前に補強したライコ(ミロサヴリェヴィッチ)についてはどのような意図があったのでしょうか。

「まずポポさんが来日したときに、こんないい選手がいると名前は上がっていました。補強についてはまずはCBだと思っていましたが、そこで納得できる選手と契約を結べなかった。ただ選手層を厚くしていく必要があった。ライコとも話しましたが、監督が求めるポジションはどこでもやるという意欲があった。そしてポポさんともやっているので、何をやりたいかがわかっている。彼を入れることでチームへの浸透度が早まるだろうという思いもありました」

―FWの知念慶のコンバートについてはどう見ていますか。

「キャンプの練習試合でボランチが足らなかったので、『知念を使う』とポポさんに言われました。以前、大分時代にも家長(昭博)をボランチで使っていたから、『面白いね』と返しました。実際、試合をしたらかなりしっかりとできていたんですね。

 知念も自分自身の新しい境地を開拓するのにとても前向きで、『ポポさんが本気で考えてくれるならボランチにチャレンジしたい』と言ったんです。『では、そう伝えておくよ』と言って(ポポヴィッチに)伝えたら、結構真顔で、『俺が冗談で選手をコンバートすると思うか、俺はあいつができると思ったからやったんだ』と。

 それからですね。いろんな選手が自分はこうだと思っていても、その先をポポさんが気づかせている。選手はもっともっとよくなっていくと思います」

―チャヴリッチはキャンプができずフィジカルができ上がっていなかった。また、CBのチャルシッチはメディカルチェックが予想外の結果で入団が叶わなかった。そんななかで10試合が終わって5勝4敗1分。この現在地をどう見ますか。

「監督が変わってまだ数カ月ですが、向かうべきベクトルはチーム全体が認識していると思います。まだまだ半分もでき上がっていませんが、これからが大事です。勝って自信を深めるのがいいですが、どんな状況でもブレずにがんばることだと思っています。鹿島の宿命は勝つことですが、方向性をサポーターも理解して後押ししてくれている。勝利への執着心から、チャッキーを認めてくれていることもうれしいですね」

著者プロフィール

  • 木村元彦

    木村元彦 (きむら・ゆきひこ)

    ジャーナリスト。ノンフィクションライター。愛知県出身。アジア、東欧などの民族問題を中心に取材・執筆活動を展開。『オシムの言葉』(集英社)は2005年度ミズノスポーツライター賞最優秀賞を受賞し、40万部のベストセラーになった。ほかに『争うは本意ならねど』(集英社)、『徳は孤ならず』(小学館)など著書多数。ランコ・ポポヴィッチの半生を描いた『コソボ 苦闘する親米国家』(集英社インターナショナル)が2023年1月26日に刊行された。

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