常勝軍団復活へ 鹿島はなぜポポヴィッチを呼んだのか? 強化部長が明かす、選手強化のビジョンと課題 (2ページ目)

  • 木村元彦●文・取材 text by Yukihiko Kimura

―クラブビジョンを大切にされての選択ですね。就任一年目のポポヴィッチが「苦しくなったら鹿島のエンブレムを見ろ」とロッカーで言うのは、違和感があったサポーターもいたと思いますが、彼自身、Jリーグで闘っているうちに鹿島のことがわかっていると判断された。

「勝ちにこだわる監督でこの熱量がなかったら、選手もついていかない。ポポさんにはクラブが求めている勝利に対する熱量と合致した熱量がある。

 また、鹿島のビジョンについては、サッカー界の推移に対応する必要があります。小笠原満男に象徴されるように、これまではひとりひとりの選手がチームで長くプレーしていた。しかし、今は3年ほどで海外のクラブに行く、そのサイクルが早くなったのでなかなかうまく伝えるのが困難になったという部分があります。

 だからこそクラブが伝えないといけない。そして、指揮官はピッチのなかでそれを示すことができる監督でないといけない。大分トリニータや町田ゼルビア、FC東京とそれぞれのカラーがあるように、鹿島には鹿島のアプローチの仕方があって、それをお願いしたところ、鹿島の歴史をあらためてものすごく勉強してくれた。それができる監督だというのは理解できていたのですが、案の定、至るところで鹿島の誇りを語ってくれています」

―実際、彼自身もJリーグでのキャリアを重ねて、鹿島としての闘い方もわかっていた。

「そうですね。特に鹿島は勝利にこだわるクラブです。だから、攻撃だけではなく、守備もキャンプからかなり頻繁に指示を出しています。攻撃も守備も主体性を持ってやっていて、守備からゴールに直結するようなプレーを求めている。川崎(フロンターレ)戦のチャヴリッチの同点ゴールなどそうですね。

 ポポさんはピッチのなかでも最後は選手の判断を大事にしています。試合に出ていない選手にもコミュニケーションを取るし、目配りもできている」

―チャヴリッチについては所属のスロヴァンとの交渉が難航し、「出すな」というブラツスラバのサポーターの圧力も大きく、ポポヴィッチも半ばあきらめていたそうですが、吉岡FDががんばって招いてくれたと聞きました。その経緯を教えてもらえますか。

「チャッキー(チャヴリッチ)の情報は、僕らのところにもポポさんのところにも入っていました。点を取る感覚や豊富なスピードはすぐに目につきました。ポポさんと誰を補強するか話を進めるなかで、すぐにチャッキーも移籍できると思っていました。ところが蓋を開けてみたら、進展しなくなっていきました。エチケットとして相手のクラブのことを言いたくないのですが、年末に一度まとまりかけていたものが年明けにダメになり、そこからどんどん後ろ倒しになって皆があきらめかけていました。

 しかし確認したら、何よりチャッキー本人が鹿島に来たがっていた。僕らも監督も欲しい。それならば、やり続けるしかない。僕は19年間、強化の仕事をしてきましたが、そのなかで一番大変なミッションでした。もうダメかと思うこともあり、困難な交渉でしたが、粘りに粘って1月の中旬に何とかなりました」

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