鹿島ポポヴィッチ監督が語る「土台を理解し新しい歴史を作る」 (3ページ目)

―イビツァ・オシムが指揮を執っていたシュトゥルム・グラーツで現役時代にポポとディフェンスラインを組んでいたミラニッチですね。彼とはグラーツで会ったことがあります。クレバーな監督でしたが、直接、スロヴァンでチャッキーを指導していていたのですか。

「そうです。ダルコには、まだ私が鹿島に行くとは伝えていなかったのですが、チャッキーの評価を聞くと彼は言いました。『どの国のクラブに行ったとしてもチャブリッチは大きな結果を残すだろう。選手としてももちろん、人間性もすばらしいぞ』と。しかし、彼はブラチスラバの象徴であり、最も重要な選手でした。

 だからこそ、移籍交渉は長引きました。チャッキー本人は鹿島に行きたがっていたのですが、サポーターたちが、『絶対に出すな!』と大騒ぎになったのです。この件に関しては粘り強く最後まで交渉してくれた吉岡(宗重)さんたち鹿島の強化スタッフに本当に感謝しています。一時は不可能かと思われたものを実現してくれました。また鹿島に行くという気持ちを最後まで貫いたチャッキーの意思の強さも大きかった。スロヴァンから3年延長の契約と大幅な年俸のアップを提示されたのですが、初志を貫徹しました。

 一方、その移籍はスロヴァンのサポーターに対してずっとトップシークレットでした。キャンプに帯同していると偽っていたのですが、公式HPにアップされる写真に写っていないので、また騒ぎになり、彼は家から出られなくなったのです。10日間くらい軟禁状態で家の周りを走ることもできなくなった。だから現在のチャッキーのコンディションはまだ6割くらいなのです。まだまだこれから良くなっていきます」

―確かにフィジカルはまだ整っていない印象でした。それでもメリハリの利いた走りで点に絡んだのはさすがです。小野伸二さんが チャッキーのプレーを「高くて足元もうまい」と絶賛していました。

「経験豊富な小野選手はやはり見る目が違います。外国人選手は何のために日本でプレーするのかと考えたときに圧倒的な違いがなければいけない。チャッキーからは力強さと同時に繊細なセンスを感じるはずです。名古屋戦では3点目のアシストの場面、相手に身体を当てて強さを見せつけたあと、マークに来た選手がスリップしたのを見て中に侵入して、味方を見つけて柔らかいボールを出している。あのプレーはそう多くの選手ができることではない」

 アレキサンダル・チャブリッチの柔らかさの源はユース世代に所属したクラブに見ることができる。彼はセルビアでロマンチャリ(ロマンチスト)と呼ばれて華麗なプレーを育成世代に施すことで知られるOFKベオグラードの出身。2013年にU19欧州選手権でセルビアが優勝したときのメンバーでいわば黄金世代のひとりである。

―ポポはよく組織が個を輝かせると言いますが、開幕戦では選手たちの味方を信じたプレーが目を引きました。

「先制点は植田(直通)が競り勝つことを信じて仲間がゴール前に走った。2点目はふたりに囲まれたチャッキーを信じて安西(幸輝)はクロスを上げた。そして3点目も連動したダイレクトのパスがすばらしかった。個は信頼の上で輝くとも言えますね。互いの信頼こそがチームにとって大事です。もはや突出した選手にすべてを任せて解決してくれるという時代ではないのです。キャンプから取り組んできたオーガナイズがうまく機能しました。縦への意識と強固な守備。全員が連動すべきことです。そのためには信じる力は不可欠です」

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