「高校生のほうが上回っていることも多々ある」FC町田ゼルビアをJ1昇格に導いた黒田剛監督に聞く 高校サッカーとプロの違い (3ページ目)

  • 篠 幸彦●取材・文 text by Shino Yukihiko

【勝つために細部にこだわる】

――今季の町田は監督、スタッフ、選手と多くの入れ替えがありながら開幕7戦負けなしと好調でした。開幕の段階でこれだけ早くチームをまとめあげられた要因はどんなところにありましたか?

 一つ、二つの要因で片づけられることではないですが、チームのやるべきベース、コンセプトを明確に示し、それを選手たちが理解できる状況に落とし込めたのは大きいと思います。

 今年のプレシーズンにJ1クラブ相手に6戦6連勝しましたが、なぜJ1相手に試合を組んだかというと、自分たちのできないこと、弱いところをすべて抽出したかったからです。それから中途半端に勝って、「やれる」という根拠のない自信を持ちたくなかったからというのもあります。

 昨季は50失点、51得点。その失点、得点シーンをすべて見返すと高校生でもしないような失点がたくさんありました。それを昨年から残っている選手も含めて彼らへ突きつけ、それを自覚し、認めたなかで改善を図っていく。その作業をやってきました。

 だからプレシーズンで6連勝するなかで、こういうサッカーをしていれば絶対に負けない、勝てるという自信が、1試合ごとに少しずつ確信へ変わっていったと思います。それが自信を持ってシーズン開幕に入れた一番大きな要因だったと思いますね。

――第8節のブラウブリッツ秋田戦で初黒星を記録しますが、町田は決して連敗をしませんでしたね。

 リーグを通じて負けることは絶対にあるし、思い通りにいかないこともたくさん起こり得ます。それでも連敗しないために我々のベースを高い基準で作ろうと。それが明確だったので、秋田戦で負けたあとすこしホッとしている自分がいました。

――それはどうしてですか?

 やっと勘違いや誤解をせずに、チームがもう一度ベースへ立ち返るべきタイミングができたということですね。6連勝はしていたけれど、結構やるべきことが曖昧で危ういところもありましたから。ただ、勝ち続けている時はあまり耳に入ってこないものです。

 だから負けるたびにその危機感を全員で共有して、厳しくミーティングをしてきました。その習慣が年間を通じて連敗をしなかったところにつながったと思います。

――長いシーズンのなかで、緩む時期があっても崩れず、締め直せたのはそういう作業の繰り返しがあったということですね。

 一生懸命やっていないわけではないけれど、90分集中力を切らさず、やりきるのは大変なことです。「これくらいで大丈夫」と、やるべきことが無意識に抜けてしまう瞬間はあるんですよ。それがプロの世界だと失点まできっちりと持っていかれてしまう。逆にそこをきちっと制限し、取り組めている時は大きな失点はしないものです。

 ただ、これはプロだからということではなく、青森山田時代から常にやってきたことです。勝つために細部にこだわって、例えば高校サッカー選手権はトーナメントなので、大会の2カ月前は朝練からPKの練習を何時間もしていました。

 勝つチームを作るのであればそうした細部にこだわってやっていこうと。選手たちもすごく誠実にそれを受け止めて、実践してくれたと思います。

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