「高校生のほうが上回っていることも多々ある」FC町田ゼルビアをJ1昇格に導いた黒田剛監督に聞く 高校サッカーとプロの違い (5ページ目)
【「根拠のないプライドは全部捨てろ」と言った】
――町田にとってJ1昇格、J2優勝は、クラブとしてまだ越えたことのなかった大きな壁だったと思います。黒田監督は青森山田時代に高校サッカー選手権でベスト16の壁をなかなか越えられない経験もされてきました。その大きな壁を越える難しさは感じられました?
今季の町田に、優勝とか何かタイトルを取った経験をした選手がどれだけいるかというと、ほとんどいない。だから勝者のメンタリティ、勝ちきるサッカーを浸透させるのはすごく難しい面もありました。今年はそういうミーティングが本当に多かったと思います。
――どんなミーティングだったのですか?
言葉を変えたり、またはキャッチフレーズを変えたり、いろいろと角度を変えながら選手たちに「危機感」を与え、心理面に刺激を入れる落とし込みは多かったと思います。
先ほど言われた高校サッカー選手権のベスト16の壁ですが、10年間で9度ベスト16止まりでした。「このメンバーで勝てなかったら俺にはもう勝ち方がわからない」とか、「もう辞めようかな」と思うことは何度もありました。そういう挫折のなかで掴みきった、あるいは頭ひとつ脱皮していったのが、ここ7、8年の青森山田だと思うんです。
そこを乗り越えてきた時の自分の肌感覚で、どういう言葉をかけてきたか、または選手たちがどういう取り組みをしてきたか。そこをはっきりと覚えているので、今年は選手たちのプライドを傷つけてしまうかもしれないけれど、高校生を指導した時の話をしたこともあります。
でも「根拠のないプライドは全部捨てろ」と言ったんです。「何がキャリアだ」と。「優勝を目指して細部にこだわる24時間365日があって、追求に追求を重ねて、そんな日々を積み重ねて初めてキャリアというものになるんだ」と。プロで何年やったとか、そこに何年在籍したかで、キャリアというものにはならないんだ、という話もしました。
プライドは相当に傷つけられたかもしれない。でもそれが勝者のメンタリティだということを、彼らはわかったと思うんですよね。
(後編「黒田剛監督が語るサッカー哲学とチーム作り」へつづく>>)
黒田 剛
くろだ・ごう/1970年5月26日生まれ、北海道札幌市出身。登別大谷高校、大阪体育大学で選手としてプレーしたあと、1994年に青森山田高校のコーチに就任。翌年からは監督を務め、同校を日本トップの強豪に育てた。全国高校サッカー選手権では3度の優勝を経験。2023年に青森山田を離れ、FC町田ゼルビアの監督に就任。1年目でクラブをJ1昇格・J2優勝に導いた。
著者プロフィール
篠 幸彦 (しの・ゆきひこ)
1984年、東京都生まれ。編集プロダクションを経て、実用系出版社に勤務。技術論や対談集、サッカービジネスといった多彩なスポーツ系の書籍編集を担当。2011年よりフリーランスとなり、サッカー専門誌、WEB媒体への寄稿や多数の単行本の構成を担当。著書には『長友佑都の折れないこころ』(ぱる出版)、『100問の"実戦ドリル"でサッカーiQが高まる』『高校サッカーは頭脳が9割』『弱小校のチカラを引き出す』(東邦出版)がある。
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