イニエスタとともに伝来した「バルサ化」とは何だったのか  ヴィッセル神戸が目指した姿は、バルサ戦で看板を下ろす (2ページ目)

  • 小宮良之●文 text by Komiya Yoshiyuki
  • 藤田真郷●撮影 photo by Fujita Masato

【現在のバルサにかつての匂いはほとんどない】

 もっとも、バルサは時代に応じて変身を遂げてきている。そのプロセスでは失敗も少なくなく、順位が低迷するなど、暗黒時代も経験した。また、メッシに似た選手は、何人も出ては通用せずに消えていった。グアルディオラが監督を退任したあとは、変化を余儀なくされ、「MSN」(メッシ、ルイス・スアレス、ネイマールで組んだトリオ)のように前線の個を生かしたカウンタースタイルに流れていった。

 今シーズンはシャビが監督として戻り、ラ・リーガを制した。ただ、かつての匂いはほとんどしない。FWロベルト・レヴァンドフスキの決定力と、DFロナルド・アラウホ、GKマルク・アンドレ・テア・シュテーゲンの防御力が目立っていた。

 バルサもその形を変化させている。

 では、神戸の「バルサ化」に一縷の望みもなかったのか。

 バルサ的な匂いがするチームに、一度だけ近づいた瞬間はあった。グアルディオラが師事するフアン・マヌエル・リージョが監督を務めた時代である。リージョの神戸における求心力は際立っていた。サブ組の選手までがトレーニングから学び、吸収しようとしていた。リージョが作った仕組みのなかで、選手は成長。クラブ全体を「バルサ化」することは一朝一夕にできなくても、プレーコンセプトは極めて近く、匂いを嗅ぐことはできたかもしれない。

 しかし、クラブに完成を待つほどの忍耐もなかったのが実状だろう。どこかで「手っ取り早く勝ちたい」と疼く気配が漂った。それは「バルサ化」とは相反するのだが......。

 皮肉にも今シーズンの、圧倒的な個人が集団を生かす戦い方は、「神戸らしい」とも言える。Jリーグでは無双の大迫勇也を筆頭に、酒井高徳、武藤嘉紀、山口蛍、齊藤未月という海外も経験した日本代表クラスの陣容は、他の追随を許さない。前線からボールを追い、押し込む時間を作ったら押しきれるし、リードしたらカウンターに切り替えられる。個人戦術で相手を凌駕できるのだ。

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