震災から12年──ベガルタ仙台vsいわきFCではいろいろな思いを背負った選手たちが「いつも以上の魂を込めて戦った」 (2ページ目)

  • 戸塚 啓●取材・文 text by Totsuka Kei
  • photo by Kyodo News

 20分には試合が動く。

 いわきが、動かした。

 MF山下優人の左CKはクリアされるが、セカンドボールをペナルティーエリア正面外にいたMF嵯峨理久が収める。ペナルティーエリア内左にいたDF江川慶城は、その瞬間にボールがくることを予感した。

「嵯峨選手にいい形でボールが入ったので、ワンタッチで上がってくるなと思って、相手選手より先にいいポジションを取れて、しっかりと触ることができました」

 緩やかな軌道を描いたヘディングシュートが、相手GKの林彰洋の頭上を越えていく。ゴールカバーに入る敵DFの菅田真啓のクリアも許さず、ボールはゴールネットを揺らした。

「欲張って自分がゴールを取ろうというよりは、ファーサイドのポスト際へボールがいけば事故が起こるかもしれない、もしくはそのまま入ったらラッキーだなぐらいの感じで頭で流し込んだら、自分の気持ちが乗って(ボールが)ゴールのほうへいってくれたかな」(江川)

 前半は散発な攻撃に終わった仙台は、後半になると攻勢を強めていく。選手交代をきっかけに攻撃的な姿勢を強め、64分にMF相良竜之介の左足シュートがゴールを際どく襲う。相良は70分にも際どい一撃を放つが、ホームのサポーターが沸き立つような場面は訪れない。

 いわきは前半開始直後から変わらない運動量で、仙台に圧力をかけている。主将の山下が言う。

「受け身にならずにどんどん奪いにいこう、どんどん前でプレーしていこう、というのが自分たちの強みです。引っ繰り返されても、走力があるので戻ればいいと」

 後半アディショナルタイムには、仙台が敵陣左サイドで直接FKを得る。GK林もゴール前へ上がる。仙台のサポーターのチャントも、声量が一段上がった。「せん! だい! レッツゴー!」が連呼され、FW遠藤康がゴール前へFKを蹴り入れる――。

 数秒後、仙台のサポーターのチャントが止まった。メインスタンド右側に集まる赤いユニフォームのブロックだけが、歓喜に揺れている。いわきFCのサポーターだ。ピッチ上ではアウェー用の白いユニフォームを着たいわきの選手たちが、喜びを爆発させていた。

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