サガン鳥栖を率いる異色の指導者のリーダー論。「ブレるということ自体、意味がわからない」 (2ページ目)

  • 小宮良之●文 photo by Komiya Yoshiyuki
  • 藤田真郷●撮影 photo by Fujita Masato

選手には「基準だけを強烈に伝える」

――名将は頑迷ではいけませんが、頑固なものです。

「頑固というか、信念は強く持っているつもりです、信念を持つにあたって、外的要因が、それを時にノーと言わせるわけですよね? たとえば試合に負ける、あるいは選手が反発する。それはあり得ますけど、それで変わるのはおかしい。どんな状況でも、信念は勝てると思っています。それは大切というか、当たり前。ブレるという表現があるけど、ブレるということ自体、本当は意味がわからない。僕は一択しかないから」

――川井監督がそこで言う「信念」とは?

「説明すると長くなるんですが、言ってしまえば、性格だと思います。表現者として言語化できたらいいんですけど......。たとえば僕はお刺身、カレー、ラーメンが好きで、好きなものを変えろと言われても変えられない。言葉では言い表せない」

――表現しているサッカーこそ、川井健太の信念だ、と。

「そうですね。だから選手たちにも、『信念を持ってやれ』とは言います。それが今はできているから、プレーを見てくださいって。僕がきれいに言葉を並べて、『逞しく』とか、『頑張って』とか、説明するたび、意味が外れていくと思います」

――やはり、練習の質が躍進を生んでいるのでしょうか?

「自分の練習の質が高いかは、クエスチョンです。強度はありますが、練習時間は短いし。その時間で十分ではありますが......。ひとつ言えるのは、複雑性はなるべく取り除いています。選手に基準を与える。たとえば、『ニアに飛び込みなさい』と相手のストーンの前に入ることを伝える。なぜかと言うと、相手GKをニアに止められるからです。ニアに入らないと、GKが真ん中にいっちゃう。その基準は話します。でも、僕としてはそれを超えてほしい。基準を理解しながら、『この状況ならこっちがよかった』と。基準だけは強烈に伝え、『余白の部分で超えてこい』と転がしています(笑)」

――論理の人ですね。

「仮説を立てて答えを出します。たとえば、サイド攻撃は日本サッカーの歴史を利用していますね。日本では小さな頃から真ん中を守るのが当たり前で、『中を締めろ』と刷り込まれます。でも実は攻撃は、中に入れなくてもできるんですよ。そこでクロスの定義で、日本人が世界で戦うには、やはりクロスは数で勝負する必要があるんですが、極論では(クロスには)GKも含めて10人が突っ込める。つまり、10回シュートチャンスがあるってことです。ゴールを横切るクロスには、最後の最後まで選択肢があるんですよ」

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