家本政明がJリーグで忘れられない名勝負。レフェリーでも「思わず声が出てしまった」劇的展開の試合とは? (3ページ目)

  • 篠 幸彦●取材・文 text by Shino Yukihiko
  • photo by Getty Images

思わず声が出た名勝負

2016年9月25日/J1セカンドステージ第13節 
川崎フロンターレ 3-2 横浜F・マリノス

「これぞ等々力劇場!」。まさにそんなゲームでした。ホームの川崎が14分、84分と2点リードして、終了間際まで優位に試合を進めていました。横浜FMも決して悪い内容ではなかったのですが、川崎が攻守において安定して、そのまま試合を終えるかと思っていました。

 試合の経過でいろいろとあってアディショナルタイム(AT)が長くなり、そのなかで横浜FMがAT6分に中町公祐選手、8分に伊藤翔選手が立て続けにゴールを奪って同点。伊藤選手が決めた瞬間は思わず「うわ、入った!」と声が漏れてしまうほどでした。

 しかし、そこからラストワンプレーくらいのAT10分、川崎はCKが流れたところを田坂祐介選手がもう一度クロスを入れ、小林悠選手がファーに流して決勝点。この時も私は興奮のあまり「うぉぉ!」と声が出てしまいました。

 90分以上優位に進めていてそこから追いつかれるわけですから、まともな心理状態ではなく、川崎側はパニックに陥って残り数分でさらに崩れてしまってもおかしくない場面。そのなかで印象的なアクションを起こしていたのが小林選手です。

 彼は「等々力でこのままでは終われないだろう!」と言わんばかりに「まだ行くぞ!」とチームメイトを鼓舞して、目が死んでいなかったのを覚えています。ほかにもさすがに全員ではなかったけれど、中村憲剛選手や大島僚太選手など、目が死んでいない選手たちがいました。

 そこで点が入るかどうかはわからなかったですが、このままでは終わらない空気感は確かにありました。ただ、私としてはあの時、流れとしては横浜FMが試合を持っていってしまうかもしれないと思っていました。

 ところが、ラストワンプレーで小林選手が決めてしまう。最後が小林選手というのもなんとも等々力劇場らしい結末だったと思います。

 フットボールには歴史があるもので、等々力陸上競技場というスタジアムには川崎の選手やサポーターのさまざまな喜怒哀楽がたくさん詰まっている場所。その歴史が等々力劇場というワードを生み、あの空気感を作っているのだと思います。

 また、等々力は陸上競技場ですが、スタンドに屋根が付いているので、通常の陸上競技場とはまた雰囲気が違うところがあります。そういうのも含め、あそこにはなにか棲んでいるんでしょうね。

 レフェリーとしてあの場に立っていたわけですが、いちサッカー好きの人間として魅了されました。川崎や横浜FMに関わる試合はたくさん担当してきましたが、本当に大好きな試合のひとつで、個人的には審判人生のベスト5に入るような名勝負でした。

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