サッカーは多く走ったほうが強い? J1各チームの平均走行距離を比較してみた (2ページ目)

  • 後藤健生●文 text by Goto Takeo
  • photo by Getty Images

データは各チームのスタイルの違いをあらわしている

 だが、走行距離の上位にはリーグ戦下位のチームの名前もある。たとえばリーグ戦17位の清水エスパルスが、走行距離では3番目に入っている。一方、リーグ戦で2位につける鹿島も、3位の川崎も走行距離の順位では下のほうにある。つまり、走行距離とチーム力の間には相関関係はないように見える。

 一方、チーム平均スプリント回数の順位を見ると、リーグ戦首位の横浜FMが3番目、同2位の鹿島が4番目、同4位の柏レイソルが6番目、同6位のサンフレッチェ広島が5番目につけており、全体的にスプリント回数とリーグ戦の順位の間には走行距離以上に強い関係があるようだ。

 しかし、今シーズンはJ1で3連覇を狙っている川崎(リーグ戦3位)は走行距離、スプリント回数のいずれのランキングでも下のほうにいる。したがって「強いチームは必ずよく走る」とは言えないようだ。

 トラッキングデータが各チームのプレースタイルの違いを表していることは間違いない。

 走行距離が長く、スプリント回数も多い横浜FMは、超攻撃型のチーム。両サイドバック(SB)がインサイドハーフの位置に上がって攻撃に参加し、時には両SBが同時に相手陣内バイタルエリアあたりまで進出するケースさえある。ほかのポジションの選手たちも流動的に動き、2列目はもちろん、3列目の選手が相手ゴール前まで飛び込んでいくのも珍しいことではない。

 そうしたアグレッシブなプレーをする横浜FMが、走行距離でもスプリント回数でもトップに近い位置にいるのは、まったく不思議ではない。

 一方、川崎は走行距離、スプリント回数とも下位にいるが、これも彼らのサッカースタイルを表している。

 スペースを作るために、長距離を走る必要はない。相手の動きを見てタイミングよく動けば、ほんの数歩動いたり、あるいは体の向きを変えるだけで相手のマークを受けない状態を作ることができる......。

 川崎の選手は、そうした小さなスペースを利用する戦術的な目と、その小さなスペースでもボールを失わない高い技術力を持っているので、長い距離を走る必要がないのだ。

 したがって、走行距離やスプリント回数のデータはチームのスタイルを表すものではあっても、必ずしも「走るチームが強い」というわけではない。

 ただ、川崎に関してはもう一つ面白い事実が存在する。

 それは、第22節終了時で川崎はスプリント回数で18チーム中15位と下位にランクされているが、圧倒的な強さでリーグ戦を制した2021年シーズンの川崎は走行距離では20チーム中18番目だったが、スプリント回数では上から6番目と高い順位にあったという事実だ。

 つまり、昨シーズンの川崎はスプリントを仕掛けたことによって、あの強さを維持したということになる(もっとも、同じく圧倒的な強さで優勝した2020年シーズンでは、スプリント回数は18チーム中15番目だった)。

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