サッカーは多く走ったほうが強い? J1各チームの平均走行距離を比較してみた (3ページ目)

  • 後藤健生●文 text by Goto Takeo
  • photo by Getty Images

強いチームだから走れる

 川崎のような例外的なチームはあるが、一般的にはスプリント回数が多いチームは強い。

 それなら、強くなるためには距離を走ればいいのだろうのか? そうではないと僕は思う。

「走るから強い」のではなく、「強いチームだから走ることができる」ということなのかもしれないからだ。

 たとえばSBが攻め上がるためには、チームがしっかりとボールを保持する必要がある。いつ相手チームにボールを奪われるかわからないような状態では、SBは自由に攻め上がるのは不可能だ。

 また、チームの組織が完成していて、攻撃に出たところでボールを奪われても、すぐにスペースをカバーしてくれる信頼感があるからこそ、後方の選手は安心して攻め上がることができる。

 そして、どんなポジションの選手にしても、「ただ無闇に走ればいい」というわけではない。いつ、どちらに向かって走るのかをわかっていなければ、いくら走ってもチームの役に立たない。味方がドリブルを仕掛けようとしているところに、SBが無闇に攻め上がったとしたら、味方が使おうとしていたスペースを消してしまうかもしれない。

 あるいは、走ることによって相手の厳しいマークをはずせるかもしれないが、相手がそれでもしっかりと(走って)ついてきたら、スピードを落としたり、急停止してマークを外すこともできる。

 ドリブルでボールを運びながら、相手の体勢を見てスピードを落としたり、急停止してパスコースを作るのは、久保建英の得意なプレーだ。

 つまり、戦術的な目を持って、つねに考えながら走るからこそ、走ることが勝利につながるのだ。

 今年の5月に亡くなったイビチャ・オシム監督は「水を運ぶ人」という言葉を使ってチームのために献身的に走る選手を大切にした。同時にオシム監督は多色のビブスをつけた複雑なルールでパスを回すあの独特な練習を通じて、選手に「考えながらプレーすること」を習慣づけようとした。

 つまり、オシム監督が大切にしたのは「走る選手」ではなく、「考えながら走る選手」だったのである。

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