先発たった1試合で3得点9アシスト。水沼宏太は横浜F・マリノスの「陰の功労者」だ

  • 小宮良之●文 text by Komiya Yoshiyuki
  • photo by AFLO

Jリーグ2022開幕特集
チームを支える「陰の功労者」たち(前)

 スペイン語に、「Jugador del Equipo」という言葉がある。「チームプレーヤー」という意味である。サッカーはチームスポーツで、集団を機能させる存在と言えるだろうか。「縁の下の力持ち」とも、「陰の功労者」とも言えるが、チームを作るときの土台になるべき選手のことだ

 チームプレーヤーをどう用いるか、それはチームの命運を左右する。

「宏太はいつも明るいし、その存在がチームを盛り立てる」

 チームメイトからそう言われる水沼宏太(31歳、横浜F・マリノス)は、Jリーグでも最高の「チームプレーヤー」と言えるだろう。

昨季のリーグ戦は先発1試合、途中出場35試合だった水沼宏太(横浜F・マリノス)昨季のリーグ戦は先発1試合、途中出場35試合だった水沼宏太(横浜F・マリノス)この記事に関連する写真を見る 栃木SC、サガン鳥栖、FC東京、セレッソ大阪などを渡り歩いてきたが、どのチームでも、どんな状況でも、サッカーへの取り組み方はポジティブだった。明朗な人柄は、集団を暗くしない。とはいえ、ふざけて騒ぐだけのタイプではなく、自然と明るく振る舞い、雰囲気をよくする。集団には、気難しかったり、利己的だったり、時には和を乱す選手もいるが、彼はそこで人と人をつなげることができる。

「浮き沈みはプロサッカー選手なら必ずあるもので、自分は常に物事をポジティブに捉えるようにしているんです」

 水沼はサッカー選手としての生き方について言及している。ユース年代までは、父で日本代表だった水沼貴史氏を引き合いに出されることが多かった。そのせいでやっかみも受けたと言うが、へこたれず、妬みもプラスに変換する才能があった。

「自分は根がポジティブなんだと思いますよ。父さんのことでいろいろあっても、不思議とネガティブにならなかったですね」

 拙著『グロリアス・デイズ』(集英社)のルポのなかで、水沼はその心中をこう吐露していた。

「中学生の頃はネットを見て『水沼の息子』という括りで、たくさんの誹謗中傷が書かれているのを目にして、その時は相当にショックでしたけど、『世間がそうなら、実力で見返してやろう』と思うことができました。悩まないわけじゃないんですが、ポジティブなほうに動く気持ちが強いんです。もしかすると、『水沼の息子』と言われ続けたことで、メンタルが強くなったのはあるかもしれないですね(笑)」

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