先発たった1試合で3得点9アシスト。水沼宏太は横浜F・マリノスの「陰の功労者」だ (2ページ目)

  • 小宮良之●文 text by Komiya Yoshiyuki
  • photo by AFLO

【起用法に不満を漏らすことはなかった】

 チームプレーヤーとしての資質は、何も人柄だけではない。

 サイドでチームを助けるプレーの質は、Jリーグでも屈指だろう。ピンポイントクロスの精度はナンバー1で、昨シーズンはリーグ2位のアシストを記録。得点王になった前田大然は、そのクロスに感謝すべきだろう。アビスパ福岡戦でニアに合わせたクロスは極上で、北海道コンサドーレ札幌戦のGKとDFの間に縫い入れたボールは白眉だった。

 にもかかわらず、昨シーズン、水沼が先発したのはたった1試合である。唯一の先発出場は、本来のポジションではないトップ下だった。シーズンでの出場時間は、わずか667分(主力選手は2500~3000分)で、3得点9アシストを記録した。ルヴァンカップでも、7試合出場3得点で、サブ組をけん引している。クロスの精度はアシストという目に見える数字となるが、サイドで機転を利かせてゲームの流れを変える仕事もしていた。

 それだけの貢献をしても、先発のポジションを与えられなかったわけだが、水沼は不満を表に出すことはしていない。起用法をめぐっての軋轢は、しばしばクラブの問題になるが、彼は「チームのために」沈黙を守ることができる。あまつさえ、複数のJ1クラブからのオファーを断り、生まれ育ったクラブでプレーする意思を固め、契約更新にもサインしたのだ。

「宏太君は少しもめげない。その明るさはすばらしかった」

 チームメイトたちは言う。多くの選手にとって、プロフェッショナルな姿勢は模範になっているのだ。

 単刀直入に言って、ケヴィン・マスカット監督は水沼の起用法を考え直すべきではないだろうか。昨シーズン、優勝争いをしていた横浜FMが終盤にペースダウンしたのは、パワー、スピードに頼った単調な攻撃に傾倒してしまい、相手に完全に読み切られてしまったことにある。水沼のようにタメを作り、ピッチを広く使って、周りのプレーを改善できる役者が必要だったのだ。

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