日本代表に必要なスピード系ウイング。前田大然は神出鬼没で「滑らかさ」がある

  • 杉山茂樹●文 text by Sugiyama Shigeki
  • 松岡健三郎●写真 photo by Matsuoka Kenzaburou

 東京五輪の全6試合中、前田大然は3試合に交代出場したにすぎなかった。出場時間は計約65分。U-24日本代表のアタッカー陣の中では最も少ない出場時間だった。「五輪の悔しさをチームで取り返そうという思いでやっています」とは、前節、大分トリニータ戦のあとに口にしたコメントだ。

 この試合に5-1で勝利した横浜F・マリノスは、勝ち点を56に伸ばした。首位川崎フロンターレとの勝ち点差は6。昨季に続き今季ここまで、川崎が独走劇を繰り広げてきたJリーグだが、川崎、横浜FMのマッチレースに変わりそうな雲行きだ。

 大分戦に左ウイングで出場した前田は3ゴール、1アシストと大暴れした。劇画にして吹き出しをつけるならば、「森保監督、見てますか!」という感じだろうか。まさに、東京五輪の悔しさ、憂さを晴らすかのような活躍だった。

大分トリニータ戦でハットトリックの活躍を見せた前田大然(横浜F・マリノス)大分トリニータ戦でハットトリックの活躍を見せた前田大然(横浜F・マリノス)この記事に関連する写真を見る 監督がアンジェ・ポステコグルーからケビン・マスカットに交代。その影響が心配された横浜FMだったが、サッカーの質はむしろ向上している様子だ。よりスピーディーに、ダイナミックになっている。川崎との違いでもある。横浜FMにあって、川崎にない魅力だ。大分戦で前田の逆サイドで右ウイングとして構えた仲川輝人も前田と同型のスピード系ウイング。両者を川崎の両ウイング、家長昭博、長谷川竜也と比較すると、それぞれの差はいっそう鮮明になる。

 東京五輪のU-24日本代表にも同じことが言える。久保建英、堂安律、林大地、相馬勇紀、上田綺世、三好康児、三笘薫、そして左サイドバックを兼務した旗手怜央しかり。総じて"非前田的"だ。久保、堂安という左利きの技巧派を6試合すべてに先発で使い、試合終盤まで可能な限り引っ張ろうとした森保サッカーに、盛り込むことができなかったのが、このスピード感だった。

 真ん中でボールを収める選手、すなわち大迫勇也、鎌田大地的な選手が不足しているとは、五輪を戦うU-24日本代表のメンバー発表直後に書いた原稿に記したが、前田を65分しか使わなかったという事実は、加えてスピードという要素も失ったことを意味する。日本の攻撃が一本調子になりがちな理由だった。

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