イニエスタは日本サッカー界に何をもたらしたのか。古橋亨梧や子どもたちも変わった (2ページ目)

  • text by Tsugane Ichiro
  • photo by Fujita Masato

 その最たる例が古橋亨梧だろう。もともとスピードに定評のあった選手だが、以前はその能力を活かしきれない面も多々見られた。それがイニエスタと一緒にプレーするようになってからは、状況判断が著しく成長した。スペースの見つけ方、そこに入っていくタイミングなどが格段に良くなり、アグレッシブにゴールを狙う姿勢が生きるようになった。その結果、日本代表に名を連ねるまでになっている。

◆古橋亨梧が前線で何度もポジション変更をした理由。日本代表定着へ国内組の希望となるか>>

 こうした"イニエスタ効果"は、同じチームでプレーする日本選手にとどまらず、育成年代にも波及している。

 私は子どもたちにサッカーの指導をしているが、イニエスタがJリーグでプレーするようになってからは、スクール生たちがさかんに首を振るようになった。これはイニエスタが試合中に頻繁に首を左右に振りながら、周囲の状況を確認する姿に影響を受けたからだ。

 サッカーではボールをもっていない時に、常に刻々と変化する味方と相手の位置や動き出しをチェックするのが大切だ。ただ、それを指導者が伝えても、いざ試合が始まると子どもたちはボールに夢中になって、周りを見るのを忘れてしまうケースが多い。

 しかし、世界最高峰の選手が実践する姿を見て、意識が変わった。もちろん、イニエスタがなぜ首を振っているかの真意がわからないまま、子どもたちがマネている部分もある。そこは指導者がしっかりサポートするのが大切だ。

 もう一つ、イニエスタが日本のサッカーファンに教えてくれたのは、「サッカーは良い選手が11人揃わないと勝てない」という点だ。皮肉めいた言い方だが、サッカーはスーパースター1人の力だけではチームを劇的に変えることはできない。

 イニエスタが加入し、翌年はダビド・ビジャ(2019年シーズン限りで引退)が加わるなどした神戸は、"バルセロナ化"を推し進めようと取り組んだ。しかし、イニエスタとビジャが絡んだ攻撃ではその香りを感じさせたが、それ以外のところでは苦労した。

 昨年のシーズン途中から指揮を執る三浦淳寛監督の下、神戸は当初の計画よりも現実路線へと舵を切っている。理想を追うのも大切だが、結果も求められるのがプロの世界という考えもあるだろう。

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