羽生直剛の心にグサッと刺さったオシムの言葉「少しでも受け継ぎたい」 (4ページ目)

  • 飯尾篤史●取材・文 text by Iio Atsushi

 羽生のミスからカウンターを浴びた試合翌日のこと。オシムは練習場で羽生を呼び寄せ、「俺はお前が下手だとは思っていない。むしろ、ああいうミスをしないやつだと思っている。できるんだからしっかりやれ」と声をかけた。

 若い工藤浩平がトップ下で起用され、羽生がサブに回っていた時期のこと。試合前にたまたまトイレで一緒になった時、オシムは「今は工藤のほうがいいパフォーマンスをしている。でも、またお前のほうがよくなったら、お前を使うから」と告げた。

「ただ走るだけの選手じゃないってことはわかっているぞ、みたいな感じで言ってくれたり、フェアに見ているぞ、と伝えてくれたり。オシムさんのそういうところが、僕、すごく好きなんですよ」

 この人を喜ばせたい、この人にタイトルをプレゼントしたい――。

 そう願いながら、2003年の1stステージをはじめ、あと一歩のところで実現できずにいた羽生たちに、千載一遇のチャンスが巡ってくる。オシム就任3年目となる2005年、ナビスコカップ(現ルヴァンカップ)で決勝まで勝ち上がるのだ。対戦相手は、ガンバ大阪だった。

 この大一番で内転筋を傷めてハーフタイムに交代した羽生は、延長戦を含めた残りの75分間とPK戦をベンチから見守った。

「残念でしたけど、みんなでオシムさんにタイトルを届けられたという嬉しさは、自分の中にありますよ。オシムさんが笑ってくれるだけで嬉しいんで。あの時も、オシムさんが喜んでくれるなら幸せだな、と思っていましたね」

 2006年7月、日本代表監督就任とともにオシムはジェフを離れたが、羽生はオシムによって日本代表に選出され、2007年7月には東南アジアで開催されたアジアカップにも出場した。

「優勝も、日本代表も、オシムさんが目指すべきだと言ったことを僕はすべて経験できた。その目標に導いてくれたのは、間違いなくオシムさん。しっかりとしたビジョンを持って、教え子たちをそこに引っ張っていけるのは、あらためてすごいことだと感じます。自分もそういう人間でありたいなって思いますね」

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