羽生直剛の心にグサッと刺さったオシムの言葉「少しでも受け継ぎたい」
「オシムの教え」を受け継ぐ者たち(8) 第7回を読む>>
羽生直剛
今から18年前、ジェフユナイテッド市原(現千葉)の監督に、大柄なボスニア人指揮官が着任した。彼の名は、イビチャ・オシム――。1990年イタリアW杯でユーゴスラビア代表をベスト8へと導いた知将だった。
鋭いプレッシングと、後方から選手が次々と飛び出していくアタッキングサッカーで旋風を巻き起こした"オシム・ジェフ"は、瞬く間に強豪チームへと変貌を遂げる。のちに日本代表監督も務めた指揮官は、ジェフの何を変えたのか。その教えは、ともに戦った男たちの人生にどんな影響を与えたのか。「日本人らしいサッカー」を掲げた名将の薫陶を受けた"オシムチルドレン"やスタッフたちに、2022年カタールW杯前年のいま、あらためて話を聞いた。
第8回に登場するのは、ジェフ時代にオシムに重用されて大きく成長した羽生直剛。現役時代に受けた指導、2018年12月の再会時にかけられた言葉から、羽生が見出した今後のキャリアとは。オシム・ジェフで高く評価され、日本代表でも活躍した羽生(前中央)photo by Kyodo News***
2018年12月某日――。
ベルギーのシント=トロイデンで研修を受けていたFC東京・強化部スカウト担当の羽生直剛は、オフを利用してサラエボを訪れた。
かの地で暮らすイビチャ・オシムと会うため、である。
羽生が恩師に連絡を入れたのは、半年ぶりのことだった。全日本大学選抜のセルビア遠征を視察した際にも、訪問を試みようとしたのだ。しかし、オシムがリハビリ中で時間が取れなかったため、2度目のコンタクトで実現した再会だった。
「オシムさんの自宅近くのレストランで会ったんですけど、何カ月ぶりかの外出だったみたいで。たぶん、半年前に会えなかったから、無理して出てきてくれたんだと思うんです。長時間つき合わせるのは申し訳なかったので、2時間くらい話をしました」
羽生がスカウトをしていることを知ったオシムは「お前、なんでコーチをやらないんだ?」と訊ねた。羽生が「指導者としてオシムさんには勝ち目がないから」と冗談めかして答えると、「なんだ、その理由は?」といった感じで、オシムはフッと笑った。
「自分にとって最高の指導者はオシムさんなんですよ。オシムさんよりいい指導者になれるのかと思った時に、自信がない。例えば、FC東京U-18の監督がオシムさんだったら、10人中8人をトップに昇格させられるかもしれない。でも、自分が2人しか昇格させられなかったら、6人の人生を僕が狂わせてしまったんじゃないかと気にしてしまう。そういう気持ちを毎年、持ち続けるのは無理だなと。それで、『自分は指導者とは違う道で、自分らしくチャレンジしたい』と話したら、オシムさんが――」
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