川崎・鬼木監督のすごさはどこにあるのか。マネジメントの手腕を考察 (2ページ目)

  • text by Tsugane Ichiro
  • photo by Sano Miki

 こうした鬼木監督のマネジメントは、現在の日本代表の森保一監督と共通する部分もあるように感じる。

 鬼木監督も森保監督もJリーグを3度制し、ふたりとも現役時代のポジションは守備的MF。鬼木監督の前任者は風間八宏氏で、森保監督のサンフレッチェ広島時代の前任者はミハイロ・ペトロヴィッチ監督(現コンサドーレ札幌監督)だった。

 それぞれ前任者が強烈で独特なサッカー哲学で攻撃的なチームを構築していたが、そんな監督の下でコーチ経験があるのも鬼木監督、森保監督に共通している。

 そして、ふたりとも前任者の築いた基盤を生かしながら、チームを発展させるマネジメントを取ったことも重要な共通点だろう。

 監督には就任時にふたつの道がある。ひとつは踏襲で、もうひとつが刷新。プロで監督をする人は、自分の色を出そうとして、前任者の方法から大きく変える「刷新」を選ぶことが多いなか、鬼木監督も森保監督も選んだ道は「踏襲」だった。

 前任者の築いたものを生かしながらバランスを取る手腕は、時に自分の色がないように受け取られがちだが、そのバランスを取れずにチームが崩壊するケースも少なくない。

 そうしたなか鬼木監督の場合、風間八宏氏という強烈な前任者が築いたものをベースにしつつも、攻守の絶妙なバランスを模索しながら、就任1年目、2年目のリーグ連覇を成し遂げた。

 しかし、昨年は攻撃時の風間色が弱まってきて、勝ち切れずにリーグ優勝を逃した。風間時代の遺産を食いつぶしたと捉える向きもあったが、今年は圧倒的な得点力でリーグ戦を圧倒している。

 これは風間時代にはなかった、各選手の個性をより活かせるスタイルに変わったことに要因がある。風間時代のサッカーは、精密機械のような寸分たがわぬ緻密なパスワークで攻撃を構築したが、そのスタイルを体現できるクオリティーを持った選手は、ごく限られた数しかいなかった。

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