あらためて実感するイニエスタのすごさ。「後の先をとる」感覚と得点力 (2ページ目)

  • 佐野美樹●撮影 photo by Sano Miki

 逆に相手の正面に立って受けてしまった場合は、ワンタッチで簡単に前向きの味方に渡す。相手が自分に寄せてきているなら、その相手の左右にはスペースができている。無理に勝負する必要はなく、状況が見えている味方に渡してスペースを使ってもらうほうが早い。とくに相手を背負って受けた場合はシンプルにさばいて、相手をいなしている。

 ずらす、いなす。基本的にはこの2つだが、相手ゴールに近い時には、あえて密集につっこんでいくのもイニエスタの十八番だ。ボールを足下につけたまま、ペナルティーエリア内へ入っていく。そうすると複数の相手を引きつけられるので、フリーになる味方が出てくる。

 イニエスタはカットされないぎりぎりのコースにボールを通過させ、フリーの味方へ渡して決定機へつなぐ。これはシャビにはあまりないプレーだ。メッシは自分でフィニッシュしてしまう。シャビとメッシの中間という、イニエスタらしいプレーだと思う。

 いずれもバルセロナのセオリーのなかにあるプレーだが、イニエスタの場合、それが完全に消化されていて、ナチュラルなのかセオリーなのか見分けがつかない。思うがままにやって、すべて理にかなっているという「矩をこえず」の境地といえる。

 ただ合理的なだけなら、イニエスタ以外にもそういう選手は何人もいる。だが、イニエスタはその精度と感度が図抜けている。これは、カンテラで身に着ける前から持っていた才能だろう。

 最初にずらしておいて、相手の動き次第で逆をついていくのがイニエスタのスタイルだが、その時の相手の動きを見る目が別格なのだ。すでに相手がアクションを起こしているなら、その逆をつくのは簡単である。イニエスタの凄みは、相手がアクションを起こす前にそれを予期しているところだ。

 その状況下で次の動きを読んでいるのか、それともピクリとどこかが動く瞬間を見逃さないのか。あるいは相手の目線かもしれないし、これらすべてかもしれない。

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