カズの存在が横浜FCの勝因になっている。背中で語る53歳の美学
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もう14年も前のことだから、細かい記憶はあいまいだが、猛烈にビビったことだけは覚えている。
2006年当時、サッカー専門誌のサンフレッチェ広島担当記者として、グアムキャンプを取材したことがある。目的はもちろん、広島の選手たち。ジーコジャパンにも選ばれていた佐藤寿人や駒野友一、キャプテンに就任した森崎和幸をインタビューすることだった。
名古屋戦でベンチ入りを果たした三浦知良 広島の練習場のある施設では、当時J2だった横浜FCもキャンプを張っていた。前年のJ2でも下位に沈んでいたこのチームのことはあまり知らなかったが、せっかくグアムまで来たんだからと、そちらの練習場ものぞいてみることにした。
お目当ては、三浦知良である。
前年の夏に電撃加入した当時39歳のレジェンドが、シーズン前にどのような状態にあるのか。しばし練習を眺めていると、クラブの広報が寄ってきて、「カズさんのコメント、取りますか?」と尋ねてきた。
「もちろん!」と即答してみたものの、内心は気が気ではなかった。取材者は筆者以外おらず、マンツーマンで話を聞けることになったからだ。
うれしさよりも緊張が上回った。なにせ、高校時代から憧れていた選手である。
仕事である以上、浮ついた気持ちではいられない。サッカー界のスーパースターに1対1で話を聞けるチャンスなど、めったにないことだ。練習が終わり、カズがロッカールームに戻ってくる間、何を聞けばいいのか必死に頭を巡らせた。
しばらくして、カズはやって来た。さっと手をさし出され「よろしく!」と、力強く握手してくれた。その瞬間、頭の中が真っ白となり、用意していた質問内容が完全に吹っ飛んでしまった。
後にも先にも、これほど緊張した取材はない。結局、たいしたことは聞けなかった。「コンディションはどうですか?」とか「今シーズンの目標は?」とか、その程度のことしか投げかけられなかった。しかし、そんな杓子定規的な質問にも、カズは真摯な姿勢で答えてくれた。
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