犬飼智也が鹿島に来て変わった勝利の味「喜びより先にホッとします」 (2ページ目)

  • 寺野典子●文 text by Terano Noriko
  • 渡部 伸●写真 photo by watanabe shin

 それでも、試合巧者の伝統を持つ鹿島らしくない失点。大幅な選手の入れ替わりがそこに影響を及ぼしていることも事実だろう。過密日程に慣れていない選手も少なくない。ベテラン選手の不在もまた、「言い訳」にはできないテーマではあるが、勝利しなければ、そう言われてしまうのは当然のことだ。今季、頼もしさを増した土居は続ける。

「僕も戦い方やその姿勢を教えられてきたわけじゃない。先輩の背中やチームの雰囲気を感じ取ってきた。言われてやるようじゃまだまだだし。今いる選手たちはそういう選手でもない。ただ、選手ひとりひとりが意識は高く保たなくちゃいけない。シーズンを通して考えれば、すべていい試合ができるわけじゃない。だから、こういう苦しくなったときに僕も含めて、ひとりでも多く、自発的にチームを鼓舞できる選手がいればいるほど、流れは変えられると思う。みんな頑張っているし、悪くない。本当にちょっとのスキだと思う。そこが大事なのをわかっているからこそ、選手ひとりひとりがその課題を抱え込まず、チーム全体でスキを埋めていきたい」

 一見、些細に見えることが勝敗やタイトルという大きな結果につながる。細部へのこだわりの重要性を語る勝者は多い。しかし、ミスは起きる。それをお互いにカバーし合える状態が続けば、良い結果が生まれる。昨季はそうやって、選手の不在や日程などの苦境を乗り越えた。選手個々の力不足を埋めるためのチーム力を今、試されている。

 浦和戦でデビューした上田綺世は、湘南戦でも終盤にピッチへ送り込まれた。何度かポストプレーで強さを発揮したものの、得点につながることはなかった。

 勝利やタイトル獲得が鹿島というクラブにとって、いかに重要なことなのか。ピッチに立つことでサポ―ターからの期待やプレッシャー、熱を改めて感じることはあるかと上田に訊いた。

「鹿島がどういうクラブかは小さいころから知っているし、そういうクラブだとわかって入っている。それ(サポーターの熱や圧力)を歓声に変えるという責任が自分に乗っているだけです」

 ジュニアユース出身の上田のなかにも鹿島のDNAは流れていた。

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