Jリーグ新プロジェクトの狙い。移籍金を10倍にするために必要なもの (2ページ目)

  • 中山淳●取材・文 text by Nakayama Atsushi

 これまでも、Jクラブ所属の日本人選手がヨーロッパをはじめとする国外クラブに移籍するケースは多々あったが、その市場価格はヨーロッパの水準と比較するとケタ違いに安いのが現状だ。

 たとえば、香川真司がセレッソ大阪からボルシア・ドルトムント(ドイツ)に移籍した際、セレッソは「育成補償金」という形で推定4000万円を受け取ったと言われている。しかしそのわずか2年後、ドルトムントで活躍した香川は、出来高ボーナスも含めた推定21億円とも言われる高額な移籍金で、マンチェスター・ユナイテッド(イングランド)に移籍。つまりドルトムントは、4000万円の投資で20億円以上の利益を得たことになる。

2010年にドルトムントに移籍した香川とユルゲン・クロップ監督(当時)photo by Kyodo News2010年にドルトムントに移籍した香川とユルゲン・クロップ監督(当時)photo by Kyodo News Jリーグの市場はヨーロッパとは異なるので、ドルトムントのような手法による投資利益は望めないかもしれない。しかし、「優秀な若手を輩出するリーグ」という評価を世界的に得られれば、現在は高くても数億円単位が相場とされるJクラブ所属の日本人選手も、将来的にその市場価値をひと桁増やすことは十分に可能だと思われる。

 それはサッカーの"第一次産業"とも言うべきもので、その多くが「育てて売る」ことをベースにバランスシートが成り立っている育成大国フランスのクラブが、育成への投資に力を注ぐ理由でもある。

 とはいえ、いい作物を育てるには有能な農家の存在が必要であるように、優秀な若手を育てるには有能な指導者が必要になる。おそらく日本サッカー界の育成が、これまでもっとも後れを取っている部分だ。

「イングランドでは、FA(イングランドサッカー協会)の主導で『アドバンスド・ユース・アワード』という指導者コースを作りました。これはコーチングライセンスとは別のものですが、各プロクラブの指導者がそのコースに入ることで、プロクラブにおけるエリート選手の育成指導のノウハウを習得できるという指導者育成プログラムです。それによって、各アカデミーの質は一気に高まりました。

 コーチは戦術などピッチ上のことには精通していますが、コーチングカリキュラム(指導講義計画)の作成、指導者の育成方法、フィロソフィーの構築、個別育成プランの作成、あるいはAPPの作成と実行といったノウハウは不足している部分が多いのが一般的です。そこで、私たちが『プロジェクトDNA』のなかで最初に着手したのが、JHoC(ジェイホック、Jリーグ・ヘッドオブコーチング)の立ち上げと実行でした。

 私たちの計画では、1期2年間(2019年~2020年)で18名、第4期(2022年~2024年)を終えるまでに計72名のヘッドオブコーチングを養成する予定です」

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