2019.05.30

イニエスタとは阿吽の呼吸。「全力疾走をしない」ビジャのすごさ

  • 津金壱郎●構成 text by Tsugane Ichiro
  • photo by Getty Images

福田正博 フットボール原論

■今季からヴィッセル神戸に加わったダビド・ビジャ。ワールドカップで得点王にも輝いたベテランFWが、Jリーグ13節終了時点で5ゴール。苦境の神戸にあって、得点のペースが上がってくることに期待したいストライカーについて、元日本代表FWの福田正博氏がそのすごさがどこにあるのかを語った。

着実にゴールを重ねている神戸のダビド・ビジャ ビジャの一番のよさは、DFラインの裏への抜け出しだ。そして、ゴールを簡単に決めているように見せてしまうほど、ボールを止めて蹴るという基本的な技術力が高い。元スペイン代表で、2010年W杯南アフリカ大会の得点王という看板に偽りのないプレーぶりだ。

 彼のプレーをつぶさに観察してもらいたいのだが、彼は試合中に全力疾走をそれほどしない。DFラインの裏へ抜け出すときも、全力のスピードで走り込むわけではなく、その前段階でのタイミング勝負で抜け出している。逆に言えば、全力で走らないから、トラップもコントロールでき、シュートの正確性が高くなるのだ。

 ストライカーというのは、自分勝手に動けばいいというポジションではない。パスが出る前にDFラインの裏に抜け出してもオフサイドになるだけなので、ボールを持っている味方がパスを出せるギリギリのタイミングを見計らう。言葉にすると簡単だが、実際にプレーするとなると難易度は相当に高い。

 では、ビジャがどうやって出し手とのタイミングを合わせているのかと言えば、ボールを持つ味方の姿勢や体の向きなどから見極めている。

 たとえば、アンドレス・イニエスタにボールが渡ったときのビジャに注目してもらいたい。イニエスタにボールが渡って、トラップして止めて、イニエスタが頭を上げているときに、ビジャはしっかりイニエスタの方を見ている。同時に、DFと駆け引きをしながらラインの裏を突く。

 基本的に、パスの出し手はパスを出す前に予備動作をするのだが、超一流のパサーになればなるほど予備動作が速い。相手DFも察知できるようなタイミングなら、パスは通らないからだ。

 私は現役時代に浦和でウーベ・バイン(元ドイツ代表)と一緒にプレーしたが、彼のパスが出てくるタイミングは、それまで一緒にプレーした日本人選手より格段に早かった。バインは、1990年のW杯イタリア大会で西ドイツ代表が優勝したときの主力で、94年から97年まで浦和でプレーし、私は彼とのコンビネーションで得点を量産できたことで、95年にJリーグで最初の日本人得点王になれた。

 しかし、当初はまったくタイミングを合わせられなかった。自分のタイミングでDFラインの裏に抜け出してパスを受けようとしても、彼のパスの方が先に行ってしまう。私は彼がパスを出すタイミングが早すぎると感じていたし、彼からすれば、私の動き出しが遅いと考えていた。