湘南の運命の分かれ道。
秋元陽太の罵声に、梅崎司がキレた日 (3ページ目)
「言われた瞬間は、『はっ? 何だよ、こいつ』って思いましたよね。それで、僕と陽太が言い合っているのも知らずに、話が途切れたタイミングで曺さんがロッカールームに入ってきたんですよね。でも、僕らが言い合いをしていたから、変な空気感ができあがっているじゃないですか。だから、曺さんもそれに気づいて、『お前ら、言いたいことがあるなら、思っていることをここで言い合え!』と」
梅崎と秋元の口論をきっかけに、選手は互いに思っていることをぶちまけた。
当時24歳だったDF山根視来(みき)が、ふたつ年上のMF菊地俊介に対して思いをぶつけた。石川俊輝(現・大宮アルディージャ)がチームに対する要望を言えば、「それは誰に対してだ?」と、明確な発言をさせる空気が生まれた。
年齢や立場に関係なく、その場にいる選手たちが、それぞれに自分の言葉で本音をぶちまけた。それは、自分のミスでしたとか、自分が悪いといった優等生的な発言でもなければ、チーム全体に対する曖昧な意見でもなかった。誰に、どうしてほしいのか、という具体的な要望が飛び交った。
その指摘は、議論のきっかけを作った秋元が、梅崎に対して言及したプレーにも及んだ。ロッカールームは、いつしか誰もが遠慮をしない雰囲気に包まれていた。年長者である梅崎に対しても、「五分五分のボールを取りにいくのはいい。でも、その後、取れなかったからと歩くのではなく、走って追ってほしい」という声が寄せられた。
そして、若い選手の多い湘南において、年長者である梅崎は、年下であるチームメイトの意見に対して、素直に耳を傾ける懐(ふところ)の深さを見せた。そこには、早くチームの一員になりたいという、梅崎の歩み寄りもあった。
発端を作った秋元は、「自分自身についてではなく、チームメイトへの真っ直ぐな意見」が飛び出るたびに深くうなずき、もっと本音を言うように促した。
なぜなら、それこそが秋元の真の狙いだったからだ。秋元は、ただカッとなって梅崎に喧嘩をふっかけたわけでもなければ、挑発したわけでもない。
そこにこそ、秋元のチームに対する思いが隠されていた。
(後編につづく)
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