イニエスタがプレーで伝えている「バルサにあって日本にないもの」 (2ページ目)

  • 津金壱郎●構成 text by Tsugane Ichiro photo by Getty Images

 サッカーはゴールを奪うことが目的のスポーツで、得点を奪う確率を少しでも上げるために、フォーメーションを考えたり、ポゼッションなどのチーム戦術やスタイルがあるが、それらはすべて、ゴールという目的のための手段に過ぎない。そのことを、チキは練習や試合のプレーで示していた。イニエスタが加入したヴィッセル神戸の選手たちも、私が現役時代にチキとプレーして感じたことと似たようなことを感じているのではないかと思う。

 イニエスタもチキと同じで、ゴールを奪うことを最優先にプレーしているし、パスをした方がその確率が高まるからそうしている。自分よりもゴールの近くに味方がいたり、スペースがあれば、そこを使う。中盤で自分の態勢が悪ければ、味方とシンプルにパス交換をして、その間に自分の態勢を整える。シンプルにプレーしながら、的確に状況を判断している。

 そうした判断ができるのは、イニエスタが頻繁に首を振り、体の向きをこまめに微調整しながら、ピッチ上の情報を収集して、すばやく最適な判断で次のプレーを選択しているからだ。もちろん、ただ単に首を振るだけではダメで、イニエスタのように、収集した情報を分析する能力の高さと、判断の正しさ、それを迅速に実行する正確な技術がなければ、何の意味もない。

 そのイニエスタが加わったことで、ヴィッセル神戸の選手たちは自分がうまくなったと感じているのではないだろうか。イニエスタに限らず、ボールを失わない選手がチームにいると、相手の守備がそこに集中し、ボールを保持して時間をつくってくれるので、周りはパスを受けるときにフリーになれるし、考えて判断する時間に余裕が生まれる。そのためミスが減って、自信が持てるようになり、より積極的なプレーができるという好循環が生まれる。

 しかも、ピッチ上で常に高いテンションのルーカス・ポドルスキと違って、イニエスタは冷静で穏やかなので、味方が遠慮するようなところもない。ミスをしても、イニエスタが「OK、OK」と手を叩いてくれたら、気持ちを切り替えて、次のチャンスにトライする気持ちにもなれる。そういう雰囲気をつくり出しているのも、イニエスタのすごさだ。

 ただし、イニエスタがその能力を十全に発揮しているかというと、まだまだだろう。たとえば、FWに出す縦パスにしても、バルサ時代は動いているFWの足元に出していたが、神戸ではスペースに出している。スルーパスを出すタイミングも、相手に合わせようとしているケースがある。

 バルサで、スアレスやメッシに出していたのと同じ感覚でパスを出しても、対応できる選手がいないので、周囲に合わせているのだろう。だが、神戸の日本人FWは、せっかくイニエスタと一緒にプレーしているのだから、パスが出てくるまで何度も動き直して、パスを受け続けて、イニエスタのタイミングに合わせていってほしい。

 中盤やDFラインも、イニエスタに合わせてもらうのではなく、イニエスタのリズムでプレーできるようにしていけば、それが自らのレベルアップにつながるし、イニエスタのよさがもっと出てくるのは間違いない。

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