広島・森保監督の退任に思う。クラブはビジョンを見失っていないか (5ページ目)

  • 原田大輔●取材・文 text by Harada Daisuke
  • 佐野美樹●撮影 photo by Sano Miki

 本来ならば、佐藤寿人や森﨑浩司がいなくなった今季、その彼らが主力を担っていたはずである。クラブがそうした土壌を作れず、指揮官が描いていたビジョンは大きく狂ったと言えるだろう。

 3度目のJ1優勝を達成した2015年はFWドウグラス(アル・アイン)が21得点を挙げ、昨季はFWピーター・ウタカ(FC東京)が19得点を挙げて攻撃を牽引したように、コンビネーションサッカーから個の力に頼ったサッカーへと徐々にシフトしていったのも、そのためであろう。J1初優勝を飾った2012年から考えれば、毎年主力を引き抜かれ、上積みどころか、新たにチームを作り直さなければならないなかで、森保監督は3度のタイトルを獲得したのである。

 言い換えれば、クラブは本来、哲学としていたビジョンを失いつつあるのではないだろうか。それは今季、先発に名を連ねているメンバーを見れば明らかである。結果的に森保監督が責任を取る形で退くことになったが、この結果を、この現状を、クラブはどう受け止めるのか。

 何より森保監督は、誰よりもチームではなく、クラブの未来を考えていた。J1初優勝を遂げたスピーチでは「来季のシーズンパスを買ってください」と営業したことを覚えている人も多いだろう。それ以外にも、エディオンスタジアム周辺の駐車場が減ることから観客動員を懸念し、「早く町中に新スタジアムができるように、自分がやれることは何でもやりたい」と話してくれたことも記憶に残っている。

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