【育将・今西和男】森山佳郎「自分だけの武器を持たないと生きていけない」 (3ページ目)

  • 木村元彦●文 text by Kimura Yukihiko  photo by Kyodo News

 現役を引退後に海外留学を考えていた森山を指導者の道に導いてくれたのも今西であった。恩師の至言を今度は自分が伝えた。

 教え子のひとり、日本代表柏木陽介(浦和レッズ)の世代はひとつ上に錚々たるメンバーが並んでいた。前田俊介、高萩洋次郎、高柳一誠、森脇良太(1986年生まれ)……。こんな上手い人たちの中でどう生き残っていくのか。兵庫県から広島にやってきた、まだやせっぽちの少年は練習が終わると、いつもひとりでグラウンドにうずくまって、『僕にかまって』オーラを出していた。そんなとき森山は観察を続けて、イジリに走ったり、あえて無視をしたりした。ある日、柏木は悟ったように森山に言った。

「僕の武器は走ることです」

 走るファンタジスタが生まれた瞬間であった。

「年上のテクニシャンを見て自分はハードワークするしかないと思って、今に至るんですね。それはやっぱり大事なことなんです。柏木は世代が槙野と一緒だったのも良かった。片や、お前どこまで落ち込むんだっていうくらい超ネガティブで、片や、お前どこまで羽ばたくんだよっていうくらい超ポジティブ。僕自体ピッチの中では厳しくやるけど、そこから一歩線を出た瞬間に『ただのええおっちゃんやぞ』という雰囲気で接しようと思っていたんですけど。槙野なんかは、出た瞬間に『イェーイ、ゴリさ~ん』みたいな感じで来るようなやつでしたね。あの2人はいつも一緒にいて、高め合っていましたよ」

 クラブによってはユースの入団テストを受けに来たときから「来るな」「パスは出さんぞ」といったギスギスした空気で、選手を萎縮させてしまうところもあると聞くが、広島ユースは練習参加をした子がここでやりたいと思うムードを保っていた。

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