2016.05.11

サガン鳥栖の選手いきつけの店で思う。「愛されるクラブ」の流儀

  • 小宮良之●文 text by Komiya Yoshiyuki photo by Getty Images

『うらら』の厨房では、銀座のイタリアンや寿司店など名店で経験を重ねてきた料理長が腕をふるう。しかし、技術をこれ見よがしにしない。黙々と、実直に。包丁さばきも鳥栖らしい。お通しからして、おっと目を見張る。下ごしらえがいいのだろう。キム・ミヌやキム・ミンヒョクら韓国人選手が好物だという網焼き豚カルビ、佐賀牛ステーキジャポネソースは、お店の看板メニューの一つ。どれもじっくりと丁寧に作り上げられている。時間と労力の賜物だ。

 最低限に抑えた近づきがたさは、家族の憩いの場にもってこい。昨シーズンまでキャプテンを務めていたMF藤田直之(現ヴィッセル神戸)は、しばしば一家でお店にやって来てはその英気を養っていたとか。女将さんは「藤田ロス」と寂しがる。それは多くの鳥栖サポーターの思いでもある。移籍や退団は仕方がない。プロの世界である。しかし、それでは割り切れない感情の部分に人間味があるのだ。

「鳥栖で自分は育ててもらった。この町に恩返しがしたい」

 豊田はそう言って感謝の気持ちを口にするが、人のいいサポーターたちはその言葉に胸が熱くなってしまう。