鳥栖・豊田陽平「監督主導のチームはうまくいく」 (3ページ目)

  • 小宮良之●文 text by Komiya Yoshiyuki
  • photo by AFLO

「自分が今までやって成功していたチームでは、集団のトップである監督の“引っ張る力”が非常に強かったんです。選手は個性があるもの。だから、僕らにはそれを一つにするリーダーが必要なんですよ。監督主導のチームはうまくいっています。選手はそれぞれやりたいことがあるものですが、それを全部取り入れることはできません。そんなことをすれば、一つにまとまらず、ばらばらになってしまいますからね。監督が一つにまとめてこそ、選手は個性が出せるのです。ザッケローニさんは選手に気を遣いすぎてしまったのかもしれません」

 チームにおいて、集団における競争力を出せるのは監督しかいない。それは一つの原則である。その点、スタメンの固定化は連係アップと諸刃の剣で、競争力の低下と特定の選手への依存を生み出しかねない。“次の試合は誰がピッチに立つんだろう”という緊張感が集団をたわませず、強力にする。一人だけ王様ができても和を乱すし、全員が仲良しになっても士気は弛緩し、勝負事はうまくいかないものだ。

 豊田はそのことを肌で感じてきた。

 なぜなら、鳥栖を率いていたユン・ジョンファン監督こそ、競争力を生み出すリーダーの典型だったからだ。ユン監督は選手が音を上げるほど厳しく追い込む練習を強いながら、全体の戦闘力を高めてきた。理不尽な義務を課すこともあったが、有無を言わせぬリーダーシップがチームを束ねていた。

 各クラブを戦力外として放出されたり、下のカテゴリーから引き上げられた選手が多い鳥栖が、ビッグクラブを打ち負かすようになったのは、ユンというリーダーの存在なくしては語れない。

 豊田自身も、京都サンガで燻(くすぶ)っていたときに鳥栖に移籍し、再生させられた選手の一人で、「ユンさんの考え方は自分の考え方に強く影響している」とさえ語る。例えば、「味方が敵に削られたら、黙って見過ごすな」というユンの教えは、心に刻まれている。戦いの流儀を磨き上げられた。

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