鳥栖・豊田陽平「監督主導のチームはうまくいく」
連載・世界に挑む男たち~豊田陽平(5)
2014年8月2日、福岡県久留米市にある老舗の焼き肉店「新龍月」は夜の11時近くで、新規のお客さんは入ってこない時間だった。客の数よりも、片付けをする店員の方が多く、エアコンが少し効きすぎていた。
「嫌いじゃないんですよ、肉を焼くのは」
豊田陽平はそう呟きながら、網の上にあるカルビをトングで裏返した。焦がさずに、しかし香ばしさは仄(ほの)かに加えていく。肉汁がしたたり、食欲を誘導するような匂いが立ち上った。
現在3位につけるサガン鳥栖FW豊田陽平 豊田は身長186cmと巨躯の持ち主で、"小動物を飼っているんじゃないか"と疑うほどふくらはぎは隆起しているが、その言動は細やかで、いわゆる大男のずぼらさはない。小さなことかもしれないが、例えば特製サラダのドレッシングオイルの量を「少なめに」と欠かさずオーダーする。あるいは、「今日のアスパラガスはいつもより細い」と変化を見逃さない。
「チームメイトと焼き肉に行くときも、肉を焼くのは自分ですね。周りは年下の選手ばかりですが」
そう言って頃合いを見計らいながら肉を焼く姿は、よく板に付いていた。
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