【名波浩の視点】FC東京、タイトル獲得に必要な、最後の『ピース』 (2ページ目)
守備は、GK権田修一のファインセーブも際立っているが、チャン・ヒョンスと森重真人の安定感が抜群。森重に関しては、文句のつけようがないほどいい。クリーンにボールを奪って、ラフなクリアがなく、きっちりと意図したパスを味方に配球している。加えて、フロンターレの攻撃陣に対しても、レナトにはレナトの、矢島卓郎には矢島の対処をして、人によって違った対応の守備ができている。いい指導者に恵まれて、頭を使った守りができるようになったのだろう。今、日本代表に呼ばれたら、先発で十分にやれるのではないだろうか。
その他、ボランチの高橋秀人も昨年1シーズンを通して出場し、ボールアプローチと危険察知能力が明らかにアップ。より素早い反応が求められるJ1でも、問題なく対処できている。時折、長谷川とともに守備でがんばり過ぎて、最終ラインに吸収されがちになることがあるけれども、その辺はポポヴィッチ監督がすぐに指示を出して修正。ピッチの外から的確なジャッジを下してくれる指揮官がいることは、彼ら若い選手にとっては非常にプラスだと思う。
梶山陽平をはじめ、開幕1カ月で何人かの選手が負傷したのは予期せぬことだったものの、ここまでは、期待していたとおりの戦いぶりを見せている。
今後、さらに求めることがあるとすれば、両サイドバックの攻撃参加。この日は、退場者が出たから仕方がないとはいえ、ACLの北京国安戦でも、右サイドの徳永悠平、左サイドの太田宏介ともに、なかなか前に出て行けなかった。長友佑都がいた頃のように、どちらかのサイドに偏ってもいいから、サイドバックがもう少し攻撃に絡んでいきたい。とりわけ太田は、スピードもあって、柔軟なフェイントからの仕掛けも優れているだけに、その武器をフル稼働してほしい。
さて、気になるのは、昨季の柏レイソルのように、J1に昇格して即優勝できるかどうかだが、その判断を下すには、時期尚早だと思う。今のところ、選手とスタッフとの間で素晴らしい関係性が築けていて、それがピッチでも、ピッチ外でも見受けられるけれども、連敗したり、ACLで敗退したりしたときにどうなるか。そこでズルズルと下降線をたどることなく、コンスタントに勝ち星を拾っていければ、チャンスは出てくるかもしれない。
あと、あくまでも個人的な意見として優勝へのポイントを挙げるならば、横浜F・マリノスから獲得した渡邉千真の爆発が不可欠だと思っている。流動的な動きでチャンスを作れる羽生はもちろん貴重な存在だが、渡邉が1トップで、ルーカスが2列目の真ん中にいるほうが、敵にとっては怖いような気がする。その形から、渡邉が結果を出すような状況になってくれば、タイトル獲得へのすべてのピースが埋まるのではないだろうか。
著者プロフィール
名波 浩 (ななみ・ひろし)
1972年11月28日生まれ。静岡県藤枝市出身。1995年、ジュビロ磐田に入団し一時代を築く。日本代表では10番を背負い初のW杯出場に貢献した。引退後は、ジュビロ磐田のアドバイザーを務めるとともに、テレビ朝日『やべっちF.C.』などサッカー解説者として活躍
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