サッカー日本代表に今回も鈴木優磨は招集されず 森保一監督に求めたいもうひとつの「努力」
連載第31回
杉山茂樹の「看過できない」
イビチャ・オシムはこう言った。
「選手の選考は趣味の問題だ。私はキミたちから侮辱されても構わないが、だからと言って私は自分の趣味を変えるつもりはない」
サッカーには選手のよし悪しを推し量る絶対的かつ決定的なデータがない。得点やアシストなどのランキングはあっても、日本代表の選手選考は代表の監督の好みに委ねられている。
とはいえ、好みから少々外れても、選ばざるを得ない選手は存在する。選手としての格を備えた選手だ。欧州組。とりわけチャンピオンズリーガーは外しにくい。監督が好き嫌いを言っていられない価値を有するからだ。
その伝に従えば、Jリーガーは外しやすい。Jリーグは欧州のリーグランキングに照らせば、好意的に見ても10位に入るかどうかのレベルだと筆者は見るが、欧州最高峰のチャンピオンズリーグとの比較になると、まさに雲泥の差になる。Jリーガーがチャンピオンズリーガーを差し置いて代表チームに招集されたとなると、それは事件に値する。
格は仕方がない。格の低い選手が不平不満を口にするのは、負け犬の遠吠えのようで格好悪い。問題は、オシムの言うところの趣味、好みの問題だ。価値観と言ってもいい。
代表監督の任期が4年ならば、価値観の変化も4年ごととなる。森保一監督の好みから外れた選手でも我慢すれば日の目を見る可能性が出る。サッカー選手の寿命はけっして長くない。30歳を超える選手が初招集される可能性は低い。選手寿命は10年あるかないか。となると、4年間でも長いくらいだ。それが今回、初めて8年に延長された。代表選手に選ばれてもおかしくない選手が、選ばれないまま選手生命を終える可能性が生じたことを意味する。
そんな、ある意味で角が立った状態にある日本サッカー界を丸く収めようとすれば、森保監督には趣味の幅を広げる努力、好き嫌いを極力なくす努力が求められる。8年の任期に相応しい柔軟さが不可欠となる。持ち前の生真面目さを貫けば貫くほど、仇となる。
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著者プロフィール
杉山茂樹 (すぎやましげき)
スポーツライター。静岡県出身。得意分野はサッカーでW杯取材は2022年カタール大会で11回連続。五輪も夏冬併せ9度取材。著書に『ドーハ以後』(文藝春秋)、『4-2-3-1』『バルサ対マンU』(光文社)、『3-4-3』(集英社)、『日本サッカー偏差値52』(じっぴコンパクト新書)、『「負け」に向き合う勇気』(星海社新書)、『監督図鑑』(廣済堂出版)、『36.4%のゴールはサイドから生まれる』(実業之日本社)など多数。