サッカー日本代表「史上最強」論に、セルジオ越後「ほんの1年前にアジアカップで2回も負けたことをもう忘れたのかな」
セルジオ越後の「新・サッカー一蹴両断」(1)
W杯予選突破目前の森保ジャパン。今年の課題は? photo by Kyodo News
2006年から昨年末まで18年間に渡って『週刊プレイボーイ』で掲載されていた名物コラムが、このほど『web Sportiva』に移籍。第1回のテーマは「2025年の日本代表」だ。昨年9月に開幕した北中米ワールドカップアジア最終予選でここまで5勝1分け(得失点差プラス20)と圧倒的な強さを見せ、「史上最強」論も囁かれる森保ジャパンについて、ご意見番のセルジオ越後氏はどう見ているのか。期待と課題を聞いた。
【指標となるのはあくまでW杯本番の結果】
ほんの1年前にアジアカップで2回も負けたことをもう忘れたのかな。今の段階で「史上最強」などと持ち上げるメディアの報道を見ると、そういう気持ちにもなる。さすがに気が早すぎるよ(笑)。
3月20日、埼玉スタジアムで行なわれるバーレーン戦に勝てば、3試合を残して早くも日本代表のW杯出場が決まる。
ここまでの北中米W杯アジア最終予選で、日本は初戦の中国戦(ホーム)に7-0、続くバーレーン戦(アウェー)に5-0と大勝スタートし、その後も順調に勝ち点を積み重ねてきた。唯一、白星を奪えなかったオーストラリア戦(ホーム)にしても、相手に打たれたシュートは、オウンゴールにつながった1本だけ。試合内容では圧倒していた。僕は日本に来て50年以上経つけど、こんなにスリルのないW杯最終予選は初めて。もう「絶対に負けられない戦い」というフレーズもピンとこないね。
じゃあ、それだけ日本は強くなったのか。確かに海外でプレーする選手は増えた。時代は変わったなと思う。でも、このW杯最終予選の"独走劇"に関して言えば、アジアの出場枠が4.5から8.5に増えたことが一番大きいよね。ほかのグループを見ても、W杯常連国のイラン、韓国が順調に首位を走っている。でも、もし今回も4.5枠のままだったら、それなりにハラハラする展開になっていたはず。
加えて、日本はグループ分けにも恵まれた。ライバルと目されていたオーストラリアは、以前よりも明らかにレベルが落ちた。日本が苦手にしていた(ティム・)ケーヒルのような選手は見当たらない。Jリーグでスタメンじゃない選手(町田のミッチェル・デューク)が出ているくらいだから。
また、将来のW杯招致に向け、国を挙げて強化に力を入れているサウジアラビアにしても、国内リーグに有力な外国人選手をたくさん呼んだせいで、代表選手が試合に出られなくなるという本末転倒な事態になっている。
そう考えると、史上最強どうこう言うのはやはり時期尚早。アジア最終予選を勝ち抜くのは当然で、指標となるのは、あくまで来年のW杯本番でどこまで勝ち上がれるか。選手もそれはわかっているだろう。過去の日本代表が届かなかったW杯ベスト8進出という目標をクリアしたら、初めて史上最強と言える。思えば、ザッケローニ監督時代の2014年ブラジルW杯の日本代表も史上最強と言われていたけど、結果はグループリーグ敗退だった。
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著者プロフィール
セルジオ越後 (せるじお・えちご)
サッカー評論家。1945年生まれ、ブラジル・サンパウロ出身。17歳の時に名門コリンチャンスのテストに合格し、18歳の時にプロ契約を結び、MF、FWとして活躍した。「エラシコ」と呼ばれるフェイントを発案し、ブラジル代表の背番号10を背負った同僚のリベリーノに教えたことでも有名。1972年に日本リーグの藤和不動産(湘南ベルマーレの前身)から誘いを受け、27歳で来日。1978年から日本サッカー協会公認の「さわやかサッカー教室」で全国を回り、開催1000回以上、のべ60万人以上を指導した。H.C.日光アイスバックスのシニアディレクター。日本アンプティサッカー協会最高顧問。公式ホームページ【http://www.sergio-echigo.com】