いぶし銀・吉田光範とオフトの間にあった信頼関係「監督はこういうことまでやるんだ、と思った」 (2ページ目)

  • 佐藤俊●取材・文 text by Sato Shun

 最終予選を戦うにあたって、日本は決して万全な状態ではなかった。不動の左サイドバック、都並敏史が故障から復帰できていなかった。

 その穴埋めとして、大会直前のスペイン合宿では江尻篤彦や勝矢寿延が起用されたが、オフトは満足せず、最終予選を目前にして三浦泰年を招集した。本職はボランチだが、守備力には定評があった。また、カズ(三浦知良)の兄であり、読売クラブでのプレー経験があったので、ラモス瑠偉や柱谷哲二ら主力とのコミュニケーションにも問題はなく、チームにもスムーズに溶け込めるだろうという読みもあった。

 カタール入りする直前のアジア・アフリカ選手権、コートジボワールとの試合で三浦泰は起用された。試合は1-0で勝利し、三浦泰の出来もまずまずだった。

 だが、主力不在の相手に苦戦を強いられ、チーム全体としては調子の上がらない状態にあった。

「ヤス(三浦泰)は慣れないポジションでいきなり試合に出て、しかも最終予選に出るわけですからね。精神的な負担は大きかったと思います。でも、もうヤスしかいない状況でしたから、僕は彼の動きを見ながら、まずは守備面で(彼を)しっかりサポートしていこうと思っていました」

 サウジアラビア戦、吉田は開始5分ほどで「アジアカップの時とは違うな」と感じた。サウジアラビアが守備的な布陣を敷いてきて、なおかつ、カズとラモスを異常なほど警戒し、日本の攻撃のホットラインを分断すべく、厳しいマークをつけてきた。

「まあ、そうくるだろうな、と。ある意味、それは想定内でしたね。ふたりへのマークが厳しいなら、他の選手が動けばいいだけの話で、僕は福田(正博)と(ベンチスタートの)キーちゃん(北澤豪)の運動量と攻撃力がポイントになると思っていました。

 福田には縦のスピードがあるし、キーちゃんは前で自由自在に動き、ゴール前にも飛び込んでいける力がある。それぞれ持ち味が違うけど、僕は密かに彼らに期待していました」

 実際、福田は前半20分に決定的なチャンスを得たが、決められなかった。それが、この試合における日本の最大のチャンスだった。

 後半はサウジアラビアが巻き返し、カウンターから何度も日本のゴールを襲った。

 吉田はアンカーにいる森保一の位置を確認しながら、ロングボールを放り込んで飛び込んでくるサウジアラビアの選手の対応や、セカンドボールの回収に追われた。吉田は自らの強みを存分に発揮し、日本は最後まで守備が破綻することはなかった。

「僕の持ち味は、ポジショニングのよさだと思っています。自分の後ろ、最終ラインにはテツ(柱谷哲二)と井原(正巳)がいるので、安心はしているんですけど、(相手の攻撃に対して)毎回ダイレクトに彼らに仕事をさせるわけにはいかない。

 彼らの前のゾーンで、何とか相手の攻撃を抑えること。あとは、中盤のバランスを整え、シンプルにプレーを早くすること。(トップ下に)福田がいる時は(彼の)守備の負担をできるだけ軽減させて、彼のよさを発揮できるようにするのが、僕や森保の役割だった。守備的な守備ではなく、攻撃的な守備をやろうといつも心がけていました」

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