行政書士に一発合格 元なでしこジャパンの阪口夢穂の次なる夢は? 「運は使い果たしたと思っていたけど、まだ残っていたみたい」 (3ページ目)
【楽しそうに歩むセカンドキャリア】
阪口にこれからのことを聞くと、ニヤリと笑った。彼女がこの顔をする時は何かある時だ。掘り下げない訳にはいかない。「今後のこと、聞きます~?」と始まった彼女の言葉を聞きながら、やはり阪口夢穂という人間は面白いと思った。
久しぶりの芝だと笑った阪口。肩書きが変わってもピッチが似合う「家が運送業をやってるんです。私は今、名前だけの役員なんですけど、自分なりに仕事の内容を理解したり、そこで働く人たちの気持ちに沿ったり、何か力になれたりしないかと思って、まず大型自動車第一種免許、けん引自動車第一種運転免許、運行管理者資格(貨物)、危険物取扱者乙四種を取りました」
サラリと言ってのけた。驚愕し、次の句をつなげるまでに時間を要してしまった。知らない世界を理解するために、関係資格を総なめにしていくあたりが阪口らしい。
「実は運行管理者資格は日テレ・ベレーザ時代に取ったんです。コロナ禍で時間ができたから勉強してみるか、って。その時、勉強することに目覚めたんでしょうね」
満面の笑顔で阪口はさらに続ける。
「極めつけは、行政書士資格を取ったんです。サッカーは練習と結果が同じではないけど、勉強ってやればやるほど蓄積されるでしょ? 行政書士は受験資格がなかったので、私でも挑戦できるかなって。今後の自分に少しでも必要そうなもので"士"がつくものを探してたから、行政書士......これだ!と思いました」
本格的に勉強を始めたのは(2022年の)3月で11月には試験を受けて合格というから驚きだ。調べると2、3年の勉強期間が必要な場合も多く、合格率は10%台の決して簡単な資格ではない。しかも教材を取り寄せてみたもののシーズン中だったため、ほぼ独学で取得していることになる。
「一番簡単そうなのを選んだつもりだったんですけど、勉強しはじめたらめっちゃ難しい! 日本語で書いてあるのに意味がわからん(笑)。そういうところからのスタートでした。でも私一発合格だったんですよ。ちょっと自慢です。W杯優勝で、運は使い果たしたと思ってたんですけど、まだ残ってたみたい(笑)」
キャラが壊れるかなと笑う阪口。いや、間違いなく別のキャラが構築されるはずだ。
「ガッツリ行政書士で何かをやろうって言うんじゃないんです。スペシャリストは他にもいっぱいいるじゃないですか。ただ、せっかくここまでサッカーしたんだから、何か女子サッカーに貢献しつつ、自分にしかできない形はないかなって模索してるところです。みなさん、何かアイデアありましたらぜひ教えてください(笑)」
実に楽しそうだ。少なくとも次のステップの話をする彼女はどこから見ても"無"ではない。こうして話をしているなかでも、すでにあれもいいな、これもいいなとアイデアが溢れてくる。さすがボランチ、視野が広い。吸収することが楽しいと全身から伝わってくる。そうだ、彼女はそういうプレイヤーだった。そして、そういう"人"だった。
「なんか面白いことやろなー!」と笑顔で去っていった阪口。
区切りの話を聞きに行って、逆にドン!と背中を押された気がする。彼女が代表に入り始めた頃、ボランチにコンバートされる前のこと。試合の流れで一度だけ澤&阪口というコンビが前線に立ったことがあった。それを見た時「すごいコンビだな」と感じたあの高揚感は忘れられない。阪口夢穂は、1本のパスで、シュートで、スライディングで、そしてまさかのポジショニングで......いつもワクワクさせてくれる選手だった。どうやら、それはこれからも変わることはないらしい。
profile
阪口夢穂(さかぐち みずほ)
1987年10月15日生まれ。大阪府堺市出身。
7歳からサッカーを始め、2003年に下部組織からスペランツァF.C.高槻に昇格。FC ヴィトーリア、TASAKIペルーレFCを経て、アメリカのリーグも経験。帰国後は、アルビレックス新潟Lを経て、日テレ・東京ヴェルディベレーザではもっとも長い9年間プレーし、最後は大宮アルディージャVENTUSで終えた。日本代表としては、W杯4回、五輪に2回出場している。2011年のドイツW杯で優勝を経験し、翌年のロンドン五輪では全試合に出場し、準優勝に貢献。2015年のカナダW杯でも準優勝という結果を残した。
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