羽生直剛が語るオシム。「僕はあの人にすべてを教えてもらった。偉大な人の伝道師になれたら...」 (4ページ目)

  • 浅田真樹●取材・文 text by Asada Masaki
  • photo by YUTAKA/AFLO SPORT

 やっぱり、オシムさんにいい報告したいなっていうのは常に心のどこかにあったし、そういうのはずっと、ある意味今でもあるし。

 偉大な人と出会ったんだなって改めて思うと、オシムさんのことを語っていけるような価値を自分にもつけていかなきゃいけないと思うし、(引退後の)仕事でもそうですけど、結果を残さないと、それを発信できる機会も少ないと思うんで」

 サッカーも人生も一緒だ――。師が口癖のように言っていたその言葉は、羽生が引退後の活動をするうえで、ひとつの指針ともなっているという。

「オシムさんが亡くなって、もう話は聞けませんが、サッカーも人生も本当に一緒だったよって、いつか言えるように振る舞えたらいいなと思います。そのためにも、これからはそれを確認しながら生きていきたい。

 結局、リスクを冒しなさいとか、野心を持ちなさいとかっていうのは、そうじゃないと豊かな人生じゃないんだっていうことだと思うし、これから僕自身がそれを体現していきたいですね」

 思えば3年前、最後に会った時も、オシム監督は変わらぬ姿勢と言葉で、日本からはるばるやってきた教え子と接していた。

「引退した僕にですら、『もっと上を見ろ。空は果てしないから』って。現役を引退した人間にそんなことを言う人なんて、なかなかいないと思うんですよ。

 僕はあの人にすべてを教えてもらったと本当に思っているし、僕みたいな選手が(プロで)16年もサッカーをやるなんて、あの人がいてくれなかったら成しえなかった。ネガティブな部分に目を向けるんじゃなくて、ポジティブな部分を評価していくというか、すべての人をリスペクトして成長させていくみたいな、僕自身もそういうことを少しでも真似できるようになりたい。それが今の気持ちです」

 そう語る羽生は、その思いを言葉だけでなく、すでに実行に移し始めている。

「2年前に自分の会社を立ち上げて、社員はほぼほぼアスリート。オシムさんが選手の長所を組み合わせながら作ったチームを、僕は会社で野心を持ったアスリートと一緒に作ってみたい。スポーツ選手のセカンドキャリアの問題にもつながるかもしれないですけど、そんなことを目標に今は種をまいている、っていう感じです」

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