羽生直剛が語るオシム。「僕はあの人にすべてを教えてもらった。偉大な人の伝道師になれたら...」
日本代表「私のベストゲーム」(12)
羽生直剛編(後編)
羽生直剛というサッカー選手はもともと、「自分のことを低く見積もって、だからやらなきゃいけないんだって思ってやるタイプ」だった。
日本代表で中村俊輔や遠藤保仁らと一緒にプレーした時も、「彼らと張り合うとかじゃなくて、『おまえは全然足りてねぇよ』って自分に言い聞かせながらやっていた」という。
「こういうことを人に話すと、『羽生さん、そんなに自分にプレッシャーかけて、すごく息苦しいね』って言われたりするんですけど(苦笑)、自分はそのやり方でしかやってこなかったし、だからプロになれて、(イビチャ・)オシムさんに会って、代表にもなれて、っていうことがついてきた。そこから逃げ出した時に、もう成長はなくなるのかな、っていう感覚でした。その感覚は、(現役を離れた)今でもありますけどね」
サッカー選手として、人間として、オシム監督から計り知れないほどの影響を受けた羽生は、師の言葉のなかで特に印象に残っているものがある。それはすなわち、自分とオシム監督は考え方が似ているのではないか、と思わせてくれたものだ。
ジェフユナイテッド千葉時代の2005年、ナビスコカップで優勝した時のことである。オシム監督は喜びに沸くチームを一喝するように、こんな言葉を選手にかけた。
もらった花は全部枯れたよ――。
「僕も(もともと)そういう感覚なんですよね。過去がどうだったとかじゃなくて、大事なのはこれからだっていう気持ちではいるので。
オシムさんと出会って、その哲学みたいなものに触れた時、そんな(オシム監督と同等の)レベルじゃないにしても、似た考え方を持てているのかもしれないって、ちょっと思ったりはしていました」
オシム監督のものの考え方を理解する羽生は、だからこそ、自身が代表に残り続けられるか否かについても、「あまり危機感はなかったかな」と振り返る。
「(自分のことより)オシムさんのチームが評価されてほしいなっていう感じでしたね。変わっているのかもしれないですけど、僕(苦笑)。とにかく、オシムさんが作りたいチームに貢献したいって思っていました」
苦笑いを浮かべたままの羽生が続ける。
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