バスに3時間閉じ込められても「苦でもなかった」。福西崇史にとって最も印象深い大会とは? (4ページ目)

  • 浅田真樹●取材・文 text by Asada Masaki
  • photo by AP/AFLO

 表彰式後は、反日感情に満ちた北京のスタジアムからなかなか出られず、バスのなかに2、3時間閉じ込められるはめになったが、「優勝できたから、別に苦でもなかったです(笑)」。

 福西は思い出の大会をひととおり振り返ると、当時を思い出すように一拍置いて、こう続けた。

「だからもう、本当に全部。あのアジアカップは全部が印象深いです。

 国内組の絆というか、一体感はスゴかった。ミラクルも重なりましたけど、全員が本当に優勝に向かっていた大会だったんじゃないかと思います」

 福西にはそんな経験があるがゆえ、コロナ禍でもあり、さまざまな制限下で行なわれている現在のワールドカップ最終予選を見ていると、そこで戦うことの難しさを嫌でも感じてしまうという。

「食事はひとりで、誰とも喋らないで食べなきゃいけないし、話せるのはグラウンドのなかだけ。そうなると、(一体感がある)雰囲気は作りづらい。これは結構しんどいし、時間がかかる問題だと思います。

 だから、パッと集まって、じゃあ試合をしましょうといっても、今の日本代表はギクシャク感が、特に2試合あるうちの1試合目で出てしまう。

 大変なところではあるけれど、危機感が生まれるなかでは、それを乗り越えるとチームの絆も深まるし、自信も深まるんじゃないかと思います」

 日本代表としての活動時間が限られるなか、簡単に解決できる問題でないのは確かだろう。残された試合も、決して楽な戦いにはならないと福西は見る。

 それでも、「日本にはヨーロッパで活躍している選手がたくさんいるし、個のレベルは上がっている」と福西。アジア全体のレベルが上がっているなかでは、「その個を生かしながらチーム力としての差にどうつなげて、相手を上回っていくか。そこにかかってくるんだと思います」。

 アジアを勝ち抜くことの厳しさを痛いほど知る福西は、その一方で日本人選手の能力の高さも理解しているからこそ、期待を込めてこう語る。

「今はプレッシャーとか、自分の思いとかが強すぎて、より確実な、縮こまったプレーになっている気がします。

 力はあるチームですし、自信を持ってのびのびやってもらえればいい。それができれば、自然といい結果が生まれるんじゃないかなと思っています」

(おわり)

福西崇史(ふくにし・たかし)
1976年9月1日生まれ。愛媛県出身。1995年、新居浜工高卒業後、ジュビロ磐田入り。FWからボランチにコンバートされると、すぐにレギュラーを獲得。以降、主力選手として数々のタイトル獲得に貢献した。日本代表でも活躍し、2002年日韓W杯、2006年ドイツW杯に出場。国際Aマッチ出場64試合、得点7。現在はサッカー解説者、指導者として奔走している。

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