「田中碧のメリット」とは何か。日本代表を救う傑出したポジショニング能力
カタールW杯出場に黄信号が灯った日本代表のオーストラリア戦。W杯予選に日本代表として初めて抜擢されたMF田中碧(23歳、フォルトゥナ・デュッセルドルフ)は、貴重な先制点を決めている。
8分、伊東純也が相手センターバックに強烈なプレスをかけ、日本の守備のスイッチを入れる。出されたボールをはめ込んで奪い返すと、左サイドを南野拓実が持ち上がる。これに反応したのが、田中だった。相手の視界から消えるように右ファーに流れ、味方の視界に入る。そうしてボールを呼び込むと、正確なコントロールから右足を振り、逆サイドのゴールに流し込んだ。
オーストラリア戦でW杯予選初出場を果たすと、先制ゴールを決めた田中碧この記事に関連する写真を見る そのゴールはあまりに自然で、チームプレーの一環に映った。しかし田中のサッカーは、まさにその"必然"で構築されている。全体を俯瞰するなかでボールが流れてくるようなポジショニング、タイミング。それをシューターとして行なったまでのことだ。
「パスひとつとっても、受け手、出し手の関係で成立しているので。わかりやすい立ち位置をお互いが取ることで、出し入れも簡単になってくる」
田中はサッカーの回路をそう説明している。
「サッカーは相手ありきなので、どこに立つかでボールの回し方も変わってくる。あとは、そこにパスをつけられるか、というメンタルも大きいですが。やっぱり、いい位置に立つことができれば、勝手にボールは回るものだと思っています。囲まれた時にはがせるかという個人の力も、もっと身につけないといけないですが......」
田中はサッカーを複雑化しない。難しいことを簡単に見せる異能と言えばいいだろうか。土俵際に追い込まれた一戦で、それが功を奏した。
筆者は以前、Sportivaの「2020年の年間MVP」という記事で、オルンガでも、三笘薫でも、家長昭博でもなく、田中を1位に選んだ。
田中はとにかくポジショニングに優れ、サッカーを知っている。体格、パワー、スピードとそろい踏みで、大きな弱点がない。背後を見ながら守れる一方、次のプレーを読んで前でインターセプトし、ボールを運べる。加えて、攻め上がった時の迫力や精度も高い。
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