メディアにも隠し通した窮地。
「谷間の世代」が乗り越えた壮絶な戦い (4ページ目)
鈴木はベンチにいながら、味わったことがない緊張感のなかで戦況を見守っていた。しかし、阿部や大久保らが身を硬くするような緊張感とは無縁のハツラツとしたプレーを見せ、そのふたりがゴールを挙げて、2-1で勝利した。
「嘉人と阿部はやっぱりやるな、と思いましたね。さすが役者だな、と。UAEから戦ってきた選手はプレッシャーがかかっていたけど、彼らは違った。ふたりからすれば、『(自分を)なんでUAEに連れていかなかったの?』って感じでギラギラしていたし、『やってやろう!』という気持ちが出ていた。嘉人と阿部は、僕らの世代の中の実力者であることを証明してくれた」
厳しい戦いを経て、アジア最終予選を突破したアテネ五輪代表。photo by REUTERS/AFLO 迎えた最終戦のUAE戦。試合前、スタメンに復帰した鈴木は、それまでのサッカー人生のなかで「一番緊張していた」という。勝たなければいけないプレッシャーはもちろん、UAEラウンドでも牙をむいてきた相手のエース、FWイスマエル・マタルの存在も気になっていた。
「夜、寝ようとすると、(頭の中で)マタルの薄ら笑みを浮かべた顔が浮かんでくるんですよ。『こいつを抑えないといけない』という使命感があったし、日本とバーレーンが勝ち点10で並んでいましたからね。UAEに負けると(アテネ五輪の)出場権を失う可能性が高かったので、絶対に勝たなければいけない。ここ2年の活動の集大成となる試合だったので、すごく緊張していました」
試合は前半12分、那須大亮のゴールで先制すると、日本のペースで進んだ。先行され、気落ちしたUAEは、後半12分にエースのマタルがレッドカードで退場し、完全に戦意を喪失した。
結果、日本は3-0と勝利。ピッチにいた鈴木は試合後、すぐにベンチに向かって走り出した。バーレーンとレバノン戦の結果を知りたかったからだ。
「ドロー!」
ベンチからの声に、鈴木はホッと胸をなで下ろした。
日本は、3大会連続で五輪出場を決めたのである。
(つづく)
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