静観とカミナリと。U-23選手権を勝ち進むJ1最多優勝監督の手腕 (3ページ目)

  • 浅田真樹●取材・文 text by Asada Masaki
  • photo by Getty Images

 もちろん、ベンチから手を差し伸べる、すなわち、選手交代でリズムを変えるといった策を講じることも考えられた。だが、森保監督は、あえてピッチ上の選手たちに任せた。

「今、そこで耐えられたことが成功体験になる。最悪やられることになったとしても、また次に生かせる経験が今できている。自分たちの経験値とかレベルアップのためにつなげてほしいという思いで見ていた。自分たちが痛い思いをしながら、またレベルアップしていくことは非常に大切だと思うので。そこは僕も監督として、選手たちが苦しい局面の中でやっていることを許容してあげられるというか、時と場合によるが、自分も我慢することで、選手たちの経験値を上げ、レベルアップにつながればとは思う」

 結果、20分ほど続いた"嵐"が過ぎ去ると、北朝鮮の攻撃が焦りから雑になったことも手伝い、日本は押し込まれながらもカウンターを繰り出す展開まで押し返せるようになった。FW旗手怜央(はたて・れお/順天堂大)のPKで追加点を奪い、終わってみれば、再びリードを2点に広げての勝利である。

 いわば、森保采配の懐の深さを感じさせた試合だったが、とはいえ、歴戦の名将は選手たちにすべてを任せ、ただ見守っているだけではない。北朝鮮戦前日の練習でのことだ。

 北朝鮮戦を想定したゲーム形式の練習で、翌日の先発出場組が主体となり、控え組(つまり、タイ戦の先発出場組)が4―4-2の仮想・北朝鮮を務めた。確かに、北朝鮮を相手にどうボールを動かし、相手のどこを突いていくかといった確認が練習の主な目的ではあったのだが、タイ戦の先発出場組は「オレたち、明日は試合に出ないから」と言わんばかりに緩慢なプレーを続け、易々と突破を許した。

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