水をかけられ、バッシングを浴びた城彰二を救った「カズの言葉」 (2ページ目)

  • 佐藤 俊●取材・文 text by Sato Shun

 空港ロビーを出ると、城は迎えにきていた所属の横浜マリノスの車に、川口能活、井原正巳、小村徳男と一緒に乗り込んだ。スーツは濡れたままだったが、着替えることはなかった。

「このまま帰るか、練習に行くか?」

 迎えにきたマリノスのスタッフにそう聞かれた。

「練習に行くよ」

 城は即答した。

 このまま自宅に戻っても、精神的に落ち着くのは難しい。だったら、練習をして汗を流して帰宅したほうがすっきりする。そう決心すると、痛みが残る右膝をかばいながら練習メニューをこなした。

 自宅に帰ってテレビを見ると、画面には空港でのシーンが映っていた。水をかけられ、混乱の中でなす術(すべ)もなく、その場を去っていく自分の姿がそこにはあった。

「テレビから流れてくる情報を見て、聞いて、初めて大会中にどんな報道がなされていたのかを知った。自分が結果を出せなかったことや、ガムを噛んでいたことなどが批判されて水をかけられたんだなっていうのが、自分の中ですべてつながって理解できた。

 正直、(一連の報道についても)今までの俺なら『ふざけんな』って思って、いろいろ言い返していただろうね。でも、反応しなかった。ここで何かを言うと、また叩かれるんだろうなってわかっていたので、おとなしくしていた。それは、自分の置かれていた状況を理解していたから。

 チームに戻って、監督やコーチは『水をかけたヤツは許さない』って言ってくれたけど、チームメイトからは何も言われなかったし、連絡をしてくる選手もほとんどいなかった。まあ、それは仕方がないよ。きっと、連絡しづらかったんだと思うし」

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