なでしこGK海堀あゆみ、引退の理由を語る(前編)「信条に反することはできない」 (4ページ目)

  • 早草紀子●取材・文・写真 text&photo by Hayakusa Noriko

 イメージするプレーができなくなることを恐れた彼女は、意外な行動に出る。

「これまで以上に練習して120%、130%の練習をやり続ければ、なんとか維持できると信じたかった。見えないなら、とにかく感覚を研ぎ澄まそうと思った。音とか、スタジアムの雰囲気を察知する力でカバーするしかなかったんです」

集合写真で顔をそらしていたのは、カメラのフラッシュによる目への影響を考えてのことだったという。集合写真で顔をそらしていたのは、カメラのフラッシュによる目への影響を考えてのことだったという。 海堀は自分の頭の中で言葉ではなく、映像をイメージして技術を身につけてきた。そこに活路を見出そうとした。GKコーチとともに、夜もチームを離れて自主トレーニングを重ね、感覚が身につくまで徹底的に体に叩き込んだ。すでに限界は超えていたが、このときの海堀には未来の自分へのイメージが沸いていた。もう一度W杯に出たいという一心で夢中で取り組んだ。

「少しでもよそ見をしたら今まで積み上げてきたものが崩れ落ちそうだった。だから感覚で体に覚え込まそうとしたんです」

 文字通り、血のにじむ努力を続けた1年で得た察知力は彼女の新たな可能性を生み、大きな自信につながっていった。

 2015シーズンを前に、海堀はひとりの眼科医師と出会う。治療についてあらゆる可能性を探っていた海堀はこの医師の言葉に救われた。

「重症筋無力症の眼筋型ではなく斜視だから、手術をすれば治るってハッキリと言ってくれたんです。これでW杯に間に合う!試合に出られることにつながるなら手術を受けようと迷わず即答していました。」

 手術は無事に成功。日常生活には全くの支障がないくらいに回復した。しかし、動体視力から生まれる俊敏性を強みとしていたGK海堀としては違和感を拭いきれなかった。判断がどうしても0コンマ何秒か遅れるのだ。そしてあるとき、恐れていたことが起きた。

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