【なでしこ】フル代表デビューした田中陽子に立ちはだかる「壁」 (2ページ目)

  • 早草紀子●取材・文 text by Hayakusa Noriko photo by Hayakusa Noriko

 メディアには「ポスト澤」と取り上げられるも、本人の表情は決して明るいものではなかった。そこまでのレベルに自分が達していないことを、誰よりも自覚しているからだ。

 小さい頃からサッカーボールに触れるのが楽しみだった。その気持ちは今も変わらない。緩急をつけたキックフェイントで変化をつけることができるブラジル代表のカカに憧れていた。そんな田中は、JFAアカデミー福島でサッカー三昧の6年間を過ごし、2012年に常勝軍団へと成長したINAC神戸レオネッサへの入団を決めた。

「レギュラーを獲ることが簡単じゃないことは承知の上。だからこそ、高いレベルで自分がどこまでやれるのか試したいと思った」と、あえて高い目標を自分に課した。昨季は、INACでピッチに立てない苦しい日が続いたが、それも、なでしこジャパンのメンバーに入るためのステップ。

 今回、メンバーに選出されたとはいえ、現在はあくまでも新戦力発掘の段階。まだスタートラインに立っただけであり、国内合宿では彼女の前に越えるべき壁が出現した。そして、その壁が高ければ高いほど、気合いが漲(みなぎ)るのが田中だ。

 合宿最終日の紅白戦。田中はボランチとしてプレイしたが、コンビを組む田中明日菜とのバランスをつかむことができないでいた。サイドの選手に入り込んできてもらうためのスペースを作ろうとするが、タイミングが合わない。ポジションの上げ下げ、ボールキープかドリブルか......。プレイに迷いが生じる。

 何度かゴール前に上がってボールを呼び込む動きも見せたが、彼女本来のプレイはすっかり影をひそめてしまった。「今日は本当に全然ダメだった......」と悔しさをにじませる。それでも、紅白戦が終わるとすぐさま田中明日菜と、ボードを使いながらポジショニングとタイミングを確認する。何度も何度も質問を繰り返しながら、気にかかる点はその場で問題を解決していく。

「攻守のバランス、そしてボランチ同士の距離、サイドとの連携......すべてバランスが大切。そこが今日は完全にズレてしまっていた。バランスの感覚はここからしっかりとつかんでいきたいです」と気持ちを引き締めていた田中だが、もちろん手応えもあった。

「スライディングで深いところでボールを奪うことができた。守備の部分では前より少しできたかなって思います」

 まだなでしこデビュー5日目。できないことが多くて当然だ。ほろ苦いものとなった国内合宿もその後の成長を促す貴重な時間になったことだろう。

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