【プロ野球】「打てなくていい。守備で一軍にいろ!」 近藤貞雄の"異例の辞令"で大ブレイクしたテスト入団生 (4ページ目)
【バッティング練習はしなくていい】
「キャンプの時でした。マネージャーから『監督、呼んでる』って言われまして。僕ともうひとり、内野の広瀬哲朗も呼ばれて、一緒に監督室に行ったんです。入った途端、近藤さんが『まあ座れや。体、どうだ?』って言うんで、『疲れてます』って答えました。そしたら、『疲れるわなあ、練習やるんだから。じゃあ、麦茶でも飲んで』って言われたんですね」
テーブルの上には、グラスに入った「麦茶」が用意されていた。嶋田が手に取った瞬間、その茶色い液体がウイスキーだとわかった。「麦茶じゃないですよ」と言うと、近藤は「わかった?」とゲラゲラ笑った。嶋田は舐める程度にとどめたが、酒を一滴も飲めない広瀬は「いただきます」と言って、グラスを飲み干した。すると、近藤が言った。
「ところでおまえたち、これまで一生懸命、バッティングも走塁も守備も、三拍子揃うようにやろうとしてなかったか?」
ふたりとも「はい」と答えると、近藤は続けた。
「打てなくていいから! 極端に言ったら、バッティング練習はしなくていいよ、おまえら。そのかわり、守備で一軍にいろ。内野では広瀬、外野では嶋田。何でか、わかるか? 二軍の選手に、『守備だけでも一軍で食える。一軍で給料をもらえる』っていう手本になれ」
初めて聞く言葉だった。二軍選手の手本になるのはともかく、「バッティング練習をしなくていい」と言われたことはショックだった。それはふたりとも同じだったはずだが、飲めない酒を無理に飲んだためか、広瀬は近藤の話が終わらないうちにソファに横になり、そのまま寝てしまっていた。
あえてストレートのウイスキーを用意した近藤にすれば、これは一種の「辞令伝達」の儀式だったのだろう。
「もうひとつ言われたのが、『複雑骨折でもしない限り、おまえらは二軍に落とさないから、伸び伸びやってくれ』っていうことです。プロ野球に入って10年、そんなふうに言われたのも初めてでした。こういう言い方をしたら失礼かもしれないですけど、高田さんの時は、僕と広瀬で『何でオレたち、一軍にいるのかね』『もう、どうなっちゃうのかね』って言い合ってましたから」
4 / 5


