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大野雄大の豪速球に本気で震えた日 逃げ出したい気持ちを引き留めた異次元のクロスファイヤー (3ページ目)

  • 安倍昌彦●文 text by Masahiko Abe

 あの大野雄大の144キロを、このミットで受けられた。今から15年ほど前の左腕の144キロは、現在の感覚でいえばメジャーリーガーの150キロ超を捕球するようなものだろう。体内でアドレナリンが噴き出す。

「いいね! ユーチャン! ベリーグー!」

 大野は斎藤佑樹(早稲田実→早稲田大→日本ハム)らと同じ1988年度生まれの『ハンカチ世代』。勝手にユーチャンなんて呼ばれて、マウンド上で苦笑いを浮かべている。

「ここまでもってこい!」

 一気に、ミットを右打席の内側ライン上に構える。真骨頂のクロスファイアーを体感したくなったのだ。斜めに来た。かすかにスライダー回転を帯びた、本物のクロスファイアーだ。

「143キロです」

 あれだけインステップするのだから、きっとシュート回転して外へ外れるだろう。そんな予測を覆し、ボールはホームベース左上をわずかにかすめ、「パーン!」と甲高い捕球音を響かせた。

「すばらしい! ベリーグー! 数字よりずっと上! ストレートは数字じゃないよ!」

 感動の絶叫。捕球の快音と快感に、恐怖心も、羞恥心も、きれいさっぱり消えていた。

「続けろ、続けろ! 続けて、感覚を覚えてしまえ!」

 もうほとんど、勝手に指導者だ。そして、難なくもう1球、同じところへ決めてきた。
 
「146キロです!」

「すばらしい! 数字もすばらしい! 質もすばらしい! ほんと、すばらしい!」

 シーズン前の調整期間にもかかわらず、気迫あふれる投球を見せてくれた。

【原点にある母への思い】

「オレなんか、いいかげんで、しょうもないヤツなんで......」

 自分に向かって言い捨てるように、そんなことつぶやくこともあった大野だったが、根っこはきれいなヤツだった。投げることに真摯なヤツ。

 107キロのスライダーは、大きく弧を描くように曲がり落ちてきた。これも、ストライクゾーンから地面ぎりぎりの、思わず振ってしまいたくなるような高さでミットに突き刺さった。

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