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大野雄大の豪速球に本気で震えた日 逃げ出したい気持ちを引き留めた異次元のクロスファイヤー (2ページ目)

  • 安倍昌彦●文 text by Masahiko Abe

 春のリーグ戦前のまだ肌寒い日。京都の山間はぐっと冷えていた。だから、この日のピッチングは室内練習場。照明の明るさは十分で、これなら150キロの球でも見えるはず。見えるなら捕れるだろう......と根拠のない強がりだけが"武器"だった。

 その2年前、大野は大学2年春のリーグ戦で、すでに球速150キロをクリアしていた。

 角度のあるクロスファイアが、2学年下の張本優大捕手(元ソフトバンク)のミットに突き刺さる。ピッチングはもう始まっていた。

「こりゃ、速すぎるだろ......」

 ボール2つ分ほどホップするように、右打者の内角高めにグワンと伸びる。「すみませんでした......」と謝って帰ってしまおうかと本気で思うのは、こういう瞬間である。

「いいよ、代わってくれる?」

 このひと言が出るまでに、けっこう時間がかかった。

「気をつけて......」

 張本捕手のやさしさが、怯(ひる)む心を余計に煽る。意を決し、真ん中にミットを構える。

【146キロのクロスファイアー】

 前年のリーグ戦を見ていたから、投球フォームはわかっていた。特徴は、極端なインステップ。投げる方向(ホーム方向)より2足分ほども一塁側に右足を踏み込んで、そこで一瞬背伸びをするような間(ま)をつくり、時計の文字盤でいえば、1時くらいの角度から猛烈に左腕を振り下ろしてくる。

 捕手側から見ると、ちょうど帽子の横あたりから、左腕がズバッと振られてきた。一瞬、「ミットが遅れたか!」と思ったが、なんとか間に合った。

「速えぇ、速えぇ......」

 真ん中に、もう1球。構えたミットにビシャリと決まる。暴れ馬のような投球フォームなのに、なぜかコントロールにも自分の世界を持っている。3年秋のリーグ戦で、大野は44イニングを投げて四死球わずか2。常識では理解できない左腕だ。

「144です」

 うしろでスピードガンを構えるマネジャーの声が響く。

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